アリスズ


「アディマ…?」

 景子は、彼の部屋を訪ねた。

「ああ、ケイコ…おはよう」

 アディマは、薄く微笑んだ。

 いろいろ考えていたのだろう、その表情には多少の疲れが見て取れた。

「菊さんと…トーさんに会ってきたわ」

 そう話しかけようとすると、彼は近づいてきて言葉ごと、ゆるやかに抱きしめてくれる。

「そうかい…ケイコには、どう見えた?」

 優しい、優しい声。

 それは、自然な優しさというより、優しくあろうと努力してくれているもの。

 疲れているのに、景子に心配をかけまいとしているのだ。

「うん…双子だって言われた」

 えへへ。

 彼女は、はにかんだ。

 菊が、まったく疑いを持っていない人が、そう言ったのである。

 景子が、どうして疑えようか。

「え?」

 質問と答えの噛み合わなさに、アディマは面食らったようだ。

「うん、そのトーさんがね…私のお腹の中に二人いるって」

 抱きしめていた腕がゆっくりと解かれ、彼は景子の瞳を一度見て、それからまだ目立たないお腹へと視線を下ろす。

「そう…か。双子か」

 目は、微笑みに緩んだ。

 ああ、よかった。

 双子が不吉とかだったら、どうしようかと思っていた。

 そんな、昔見たマンガの設定を頭によぎらせつつも、景子は釣られて微笑む。

「菊さんと梅さんが、一人ずつ祝福してくれるって」

 アディマは、難しいことを沢山考えている。

 景子に言えるのは、こんな他愛もないことだ。

 けれども、彼が本当に自然と微笑んでくれるなら、こんな他愛ないことでも輝くのだ。

「そうか…それなら僕は、二人を同時に祝福しよう…だが、一つ困ったことがあるな」

 ふと、彼は考え込んだ。

「え?」

「いや…もし2人がイデアメリトスの権利を持っていたら…同時に捧櫛の神殿へ旅立たなければならないだろう?」

 顔を見合わせる。

 その様子は、我が子ながらとても滑稽に見えて。

 顔を見合わせたまま、二人で笑ってしまったのだった。