☆
暗雲は。
菊だった。
景子が、ロジューの噂で菊らしい人が出てくることを、アディマに言ってしまったのだ。
それが、悪いことだとは思いもせずに。
だが。
「彼女が、歌の男と一緒に?」
彼の表情は、一瞬で曇ったのだ。
「違うかもしれないんだけど…」
景子の唇も、我知らず重くなる。
既にもう、心の中では『違うといいな』まで進化し始めていた。
アディマの表情は、それくらい重いものだったのだ。
「彼女のことだから、どんな不思議な人とでも、気楽に旅をしているんだろうね」
不思議な人。
その部分に、奇妙なアクセントを感じた。
そこに、地雷が埋まっている──そんな気配。
せっかく、アディマと楽しい時間を過ごすはずだったのに、どうにもうまくいかない。
彼が、何かを喉に詰まらせたまま、飲み込めずにいるからだ。
景子とどんな明るい話をしていても、その喉の異物感がアディマを憂鬱にさせるのだろう。
「わ、私に話せることなら話して。出来るだけ力になるから」
政治のことは、景子には分からない。
けれども、菊のことなら少しは分かるのだ。
アディマは、ソファに背を預けるように沈み込むと、上を見上げた。
「魔法を、イデアメリトスのものだけにしておくのが、本当はとても難しいことなんだと思ってね」
上を見上げたまま、瞳が景子の方へと動かされた。
どきっと、した。
彼女自身も、魔法に似たような奇妙な力があるからだ。
アディマは、それを知っている。
彼は、景子の魔法を知った時に喜んだ。
しかし、そんな単純な話ではないのだと、瞳が彼女に教えてくれた。
魔法の君主の統べるこの国は、他に魔法を使う者がいてはならないのだろうか。
そうだというのならば。
景子もまた、危険な因子ということになるのだ。
暗雲は。
菊だった。
景子が、ロジューの噂で菊らしい人が出てくることを、アディマに言ってしまったのだ。
それが、悪いことだとは思いもせずに。
だが。
「彼女が、歌の男と一緒に?」
彼の表情は、一瞬で曇ったのだ。
「違うかもしれないんだけど…」
景子の唇も、我知らず重くなる。
既にもう、心の中では『違うといいな』まで進化し始めていた。
アディマの表情は、それくらい重いものだったのだ。
「彼女のことだから、どんな不思議な人とでも、気楽に旅をしているんだろうね」
不思議な人。
その部分に、奇妙なアクセントを感じた。
そこに、地雷が埋まっている──そんな気配。
せっかく、アディマと楽しい時間を過ごすはずだったのに、どうにもうまくいかない。
彼が、何かを喉に詰まらせたまま、飲み込めずにいるからだ。
景子とどんな明るい話をしていても、その喉の異物感がアディマを憂鬱にさせるのだろう。
「わ、私に話せることなら話して。出来るだけ力になるから」
政治のことは、景子には分からない。
けれども、菊のことなら少しは分かるのだ。
アディマは、ソファに背を預けるように沈み込むと、上を見上げた。
「魔法を、イデアメリトスのものだけにしておくのが、本当はとても難しいことなんだと思ってね」
上を見上げたまま、瞳が景子の方へと動かされた。
どきっと、した。
彼女自身も、魔法に似たような奇妙な力があるからだ。
アディマは、それを知っている。
彼は、景子の魔法を知った時に喜んだ。
しかし、そんな単純な話ではないのだと、瞳が彼女に教えてくれた。
魔法の君主の統べるこの国は、他に魔法を使う者がいてはならないのだろうか。
そうだというのならば。
景子もまた、危険な因子ということになるのだ。


