☆
「農林府でね…」
景子は、とりあえずアディマの興味のありそうな話題を口に出してみた。
畑に水を張るための治水の話や、連作障害解消のための話を、彼女は夢中になって話したのだ。
自分の好きな話のせいで、どんどん言葉に熱がこもってゆく。
最近、本当に仕事がしやすい気がした。
温室の報告書も、別の部署の目にとまったらしい。
ロジューのところに、今度農林府から視察団が向かうという。
暑季地帯でしか取れない薬草などを、都の近くで栽培するために活用したい──話が、いろんな方向に膨らんでいた。
「室長も、最近あまり怖くないから、仕事場の居心地がいいの」
にこにこしながら、景子は順調な仕事をアディマにアピールした。
農林府に入れたことを、彼が喜んでくれると嬉しいと思ったのだ。
「そうか…よい上司に恵まれたね」
ソファの隣に座るアディマの金褐色の目が、一度細められた後、微かに何かを考える瞳に変わる。
「室長は、何かケイコに言ったかい?」
ふと。
彼の唇が、不思議なことを言った。
???
質問の意味が分からない。
「ええと…仕事の話くらいしか…あ、一回だけ結婚しているかどうか聞かれたかな」
さして多くはない、室長との記憶を、景子は軽く掘り起こしてみた。
「アディマの叔母様の勧めで、結婚したことにしているので…そう答えておいたんだけど…」
だ、だめだった?
景子は、ちょっと心配になりながら、彼を見た。
アディマは、穏やかに目を細める。
「ああ、聞いたよ。便宜上とは言え、嘘をつかせてしまっているね…すまない」
彼は、もう室長の話は出さなかった。
ただ、優しく肩を抱いてくれる。
不甲斐ない自分自身を、厭わしく思ったのかもしれない。
「嘘は苦手だけど、アディマとの子供を授かったのは、すごく嬉しいのよ…それは本当」
にこにこと、景子は笑ったのだ。
けれども──暗雲は、すぐそこに近づいてきていた。
「農林府でね…」
景子は、とりあえずアディマの興味のありそうな話題を口に出してみた。
畑に水を張るための治水の話や、連作障害解消のための話を、彼女は夢中になって話したのだ。
自分の好きな話のせいで、どんどん言葉に熱がこもってゆく。
最近、本当に仕事がしやすい気がした。
温室の報告書も、別の部署の目にとまったらしい。
ロジューのところに、今度農林府から視察団が向かうという。
暑季地帯でしか取れない薬草などを、都の近くで栽培するために活用したい──話が、いろんな方向に膨らんでいた。
「室長も、最近あまり怖くないから、仕事場の居心地がいいの」
にこにこしながら、景子は順調な仕事をアディマにアピールした。
農林府に入れたことを、彼が喜んでくれると嬉しいと思ったのだ。
「そうか…よい上司に恵まれたね」
ソファの隣に座るアディマの金褐色の目が、一度細められた後、微かに何かを考える瞳に変わる。
「室長は、何かケイコに言ったかい?」
ふと。
彼の唇が、不思議なことを言った。
???
質問の意味が分からない。
「ええと…仕事の話くらいしか…あ、一回だけ結婚しているかどうか聞かれたかな」
さして多くはない、室長との記憶を、景子は軽く掘り起こしてみた。
「アディマの叔母様の勧めで、結婚したことにしているので…そう答えておいたんだけど…」
だ、だめだった?
景子は、ちょっと心配になりながら、彼を見た。
アディマは、穏やかに目を細める。
「ああ、聞いたよ。便宜上とは言え、嘘をつかせてしまっているね…すまない」
彼は、もう室長の話は出さなかった。
ただ、優しく肩を抱いてくれる。
不甲斐ない自分自身を、厭わしく思ったのかもしれない。
「嘘は苦手だけど、アディマとの子供を授かったのは、すごく嬉しいのよ…それは本当」
にこにこと、景子は笑ったのだ。
けれども──暗雲は、すぐそこに近づいてきていた。


