☆
「そういえば、スレイが面白い話を持ってきたぞ」
ロジューは、ふと話を変えた。
スレイとは、景子の夫役であり、彼女のおなかの子の父親である黒褐色の肌を持つ男だ。
「北の中季地帯の方から、奇妙な噂が流れてきているらしい」
その声は、面白がるようであり、何かを探るようであり。
「何でも、奇跡を起こす歌を歌うものがいる、とか」
「はぁ…」
景子は、首をかしげながら、頼りないあいづちを打った。
「何だ、お前も北の中季地帯の辺りから来たと聞いていたから、知り合いかと思ったら違うのか」
彼女から、何か情報が得られると思ったのだろう。
奇跡というものを、ロジューは魔法だと判断したのか。
い、いや、日本人ってそんなに魔法使える人いませんから。
自分のこの能力が、普通ではないのだ。
しかし、そんなことをロジューが知るわけもない。
「男の二人づれで、片方は珍しい剣を使うというが…面白そうだとは思わんか?」
奇跡の歌の2人組は、どうやら彼女の興味を大きく引いたらしい。
だが、景子がひっかかったのは、『珍しい剣』という方だった。
あれ?
彼女の想像の中に、ある人物が浮かび上がったのだ。
男ではないが、よく間違えられる女性だった。
ま、まさか。
彼女が、歌で奇跡を起こせるとは思えない。
だが、ロジューは言ったではないか。
二人づれ、と。
もう一人の男が誰であるか、景子が想像つくはずもなかった。
菊が、誰かと一緒に旅をしているのだろうか。
森で出会った、アルテンとかいう人だろうか。
景子は考えに夢中になるあまり、つい無意識でうなってしまっていたようだ。
「まんざら、まったく心当たりがない、というワケでもなさそうだな」
ロジューが、視線をこちらに向けて楽しげに目を細め始める。
「その珍しい剣を持った人が、実は女性というのなら心当たりはあります…」
既に──景子の頭には、すっかり菊の姿が焼き付いていたのだった。
「そういえば、スレイが面白い話を持ってきたぞ」
ロジューは、ふと話を変えた。
スレイとは、景子の夫役であり、彼女のおなかの子の父親である黒褐色の肌を持つ男だ。
「北の中季地帯の方から、奇妙な噂が流れてきているらしい」
その声は、面白がるようであり、何かを探るようであり。
「何でも、奇跡を起こす歌を歌うものがいる、とか」
「はぁ…」
景子は、首をかしげながら、頼りないあいづちを打った。
「何だ、お前も北の中季地帯の辺りから来たと聞いていたから、知り合いかと思ったら違うのか」
彼女から、何か情報が得られると思ったのだろう。
奇跡というものを、ロジューは魔法だと判断したのか。
い、いや、日本人ってそんなに魔法使える人いませんから。
自分のこの能力が、普通ではないのだ。
しかし、そんなことをロジューが知るわけもない。
「男の二人づれで、片方は珍しい剣を使うというが…面白そうだとは思わんか?」
奇跡の歌の2人組は、どうやら彼女の興味を大きく引いたらしい。
だが、景子がひっかかったのは、『珍しい剣』という方だった。
あれ?
彼女の想像の中に、ある人物が浮かび上がったのだ。
男ではないが、よく間違えられる女性だった。
ま、まさか。
彼女が、歌で奇跡を起こせるとは思えない。
だが、ロジューは言ったではないか。
二人づれ、と。
もう一人の男が誰であるか、景子が想像つくはずもなかった。
菊が、誰かと一緒に旅をしているのだろうか。
森で出会った、アルテンとかいう人だろうか。
景子は考えに夢中になるあまり、つい無意識でうなってしまっていたようだ。
「まんざら、まったく心当たりがない、というワケでもなさそうだな」
ロジューが、視線をこちらに向けて楽しげに目を細め始める。
「その珍しい剣を持った人が、実は女性というのなら心当たりはあります…」
既に──景子の頭には、すっかり菊の姿が焼き付いていたのだった。


