アリスズ


 ロジューが、都に来ているという。

 景子が、都に戻ってから一月ちょっと。

 正式に、農林府に連作障害対策の試験の指示が下り、細かい作業手順をまとめ終えたばかりの頃だ。

 そんな中、農林府に宮殿からの遣いの荷馬車がやってきた。

 そして、ロジューの名の下に、景子は簡単に拉致されたのである。

 あああああ、まだ、あれとあれとあれも終わってないー。

 心残りの仕事を、指折り数えている内に、彼女は宮殿へと運びこまれてしまったのだった。

 西翼のロジューの部屋へと案内されると、そんな景子の心も知らない女イデアメリトスが、悠然とソファにうずもれているではないか。

「久しいな」

 呼びつけることには、1ミリの罪の意識もなく、ただ彼女は再び会えたことに微笑むのだ。

「お久しぶりです。お身体は平気ですか?」

 景子は、もはや諦めた。

 せっかく、ロジューと再会出来たのだ。

 彼女の秘密を共有する、数少ない人である。

 そういう意味では、一番気楽に話ができるだろう。

 イデアメリトスの血筋を相手に、本来なら気楽もへったくれもないのだろうが。

「ああ…ときどき気分が悪くなるがな。ケーコは平気なのか?」

 つわりなのかなあ、と景子は想像しながら、こくりと頷いた。

 幸い、彼女にはまだつわりは訪れておらず、自分が本当に妊娠しているのか時々不安になるほどだ。

 だが、いまだおなかはぴかぴかと元気だった。

「今回、都に来たのはな…」

 ロジューが本題に入ったので、景子は自分のおなかから彼女へと視線を戻した。

 都へ来るのは、そんなに好きではないような彼女が、再びやって来たのだ。

「私の妊娠を、正式に報告するためだ。イデアメリトスの肩書を持つ者が、こっそり産むわけにもいかぬからな…さて、どうしてくれよう」

 軽く自分のおなかを撫でながら、ロジューはニヤリと笑う。

「便宜上は、愚甥の子としておく方が便利なのだがな」

 そのニヤニヤの目は、漏れなく彼女に向けられるのだ。

 あはははは。

 久しぶりのロジュー節に、いとも簡単にいやな汗を流させられる景子だった。