アリスズ


 アディマとダイ。

 イデアメリトスの世継ぎが、たった一人の護衛だけを連れて、門の外に出てくるなんて。

 景子は、それにどう反応したらいいか、分からなかった。

 けれども、近づいてくるアディマは、彼女を見つけて幸せそうな瞳になるのだ。

 微笑んでいるわけではない。

 目だけで、彼女に会えた嬉しさを伝えてくれる。

 室長は、一瞬誰か分からなかったようだ。

「職務、ご苦労だね」

 穏やかにかけられた声に、室長ははっと気づいたように臣下の礼を取った。

 景子は。

 ぼーっと彼を見ていた。

 腰をかがめて、女性らしくご挨拶をしなければならないというのに。

「おそれながら…イデアメリトスの御方とお見受けいたしましたが」

 顔を上げられないまま、税務府の室長は静かに声を綴る。

「税務府に行ったら、こっちだと聞いたからね…職務の邪魔はしないよ」

 彼に立ち上がるように許可を出しながら、アディマは外畑を見た。

「この畑に、倍の実りを与えてくれると聞いてね」

 イデアメリトスの瞳が、景子を見る。

 あう。

 その言葉は、彼女にプレッシャーを与えてくれる。

 だが、その重圧に耐え、景子をぐっと顔を上げるのだ。

「はい、精一杯頑張ります」

 アディマが、仕事として来ているのならば、彼女も仕事として答えなければならない。

 彼は一度、肯くように瞳を伏せる。

「ところで、ひとつ聞きたいのだが」

 視線は、ゆっくりと再び景子に向けられた。

「イエンタラスー夫人の屋敷にいる女性を知っていると思うが…彼女は、我が国の手伝いをしてくれるだろうか」

 室長がいるために、回りくどい表現になるのだろう。

 だが、そんなアディマの言葉は、景子を一言ごとに明るくしていくのだ。

 景子は、心の底から笑顔になった。

「はい、きっと!」

 彼女の太陽は、ちゃんと遠くまで見ていてくれたのだ。