アリスズ


 税務部の室長は、人種的にはアディマと同じだった。

 褐色の肌と、金褐色の瞳。

 外を精力的に動き回る人らしく、がっしりとした彼は、景子の話を聞いた後、外畑に同行するように頼んだのだ。

「君の言うような、豆類の枯れ草は確実に確保できるわけではない。穀物畑を他のものに切り替えるわけにもいかない」

 穀物畑を前に、室長ははっきりと条件を突きつけてくる。

「では…水を入れるより他、ありませんか」

 ひとつの畑に入れるだけならば、そう大変ではないだろう。

 しかし、全ての畑に水を引くとなると、現実問題は厳しかった。

「そうだな…そうなれば、国中に治水工事が必要になる」

 考えるまでもなく、大掛かりな工事だ。

 相当な税金の投入と、何年も何年もかけて工事を行わなければならないだろう。

 この大陸は、とても広いのだ。

「そのためには、確実に税収が倍に上がるという裏づけがいるのだ。それを、この外畑で農林府に試験して欲しい」

 熱意の含まれた視線に、景子はゴクリと息を呑んだ。

 責任重大だった。

 本当に治水工事が成功するならば、地域的には水耕栽培の可能性もありだ。

 日本で、田に水を張り稲を作り、秋冬で麦を作るように。

 可能性は、いくらでも広がるが、それはとても長い年月を必要とすることも理解していた。

 だが。

「はい、頑張ります」

 景子は、笑った。

 この身に、アディマの子を宿すと決めた時、彼女はもうこの国に骨を埋める覚悟を決めたのだ。

 残りの命の使い方を、ここで決めていく。

 農業を技術にする。

 それは、農民のためであり、国のためであり、アディマのためでもある。

 そんな彼女の目の中に。

 光が入ってくる。

 税務府の室長の身体の向こう。

 ぴかぴかに光る光が、門を超えて見えてくる。

 景子が、その光にみとれてほけっとしていると。

 室長も、何事かと振り返る。

 イデアメリトスの光だった。

 いや──アディマの光だった。