アリスズ


「これは、イデアメリトスの…!」

 税務府でも、やはり彼は府長室へと通される。

 こちらでは、連作障害対策の話は、すでに府長の耳に入っていた。

「もし、農林府から提出された書類が本当であるならば、100年前の税収が戻ってくるものと考えております」

 見せられた書類に描かれているのは、不思議な絵だった。

「『推移表(グラフ)』というものだそうです。農林府の書類に描かれていたものが秀逸でしたので、税務府ですぐに採用致しました」

 10年単位で描かれているその形は、誰にでも一目で税収の減少が分かるようになっている。

 少しずつ、少しずつ。

 1年ずつ見ていくと、大幅な減少には見えないが、10年単位で100年を通して見ると、半分ほどまで落ち込んでいるのが一目瞭然だった。

 農林府の書類という言葉を聞いて、アディマは嬉しく思った。

 ケイコが頑張った半年間は、農林府ではさしたる評価を得なかったようだが、ここでは大きな影響を与えていたのだ。

「その農林府の担当が、いまこちらに来ていると聞いたが」

 そして、アディマは農林税務部へと案内された。

 農林府とは、何もかも違う多忙感あふれる部署だった。

 その部の、税収向上室というところに、ケイコは呼ばれていたらしい。

「彼女なら、先ほどうちの室長と、外畑の方へと向かいました」

 またも。

 アディマは苦笑した。

 またも、彼女はアディマの腕をすり抜けていったのだ。

「不思議な知識を持つ人ですね…推移表もたくさん教えてもらいました」

 机の上に書き散らかされた絵を、分室の者が説明してくれる。

 線で描かれたもの、円で描かれたもの、線と棒が複合したもの。

「計算もとても速いですし…彼女の国では、どんな勉強をしていたのか気になります」

 ケイコの知識が活かせるのは、農業だけではないのだろう。

 だが、彼女の身体は、たった一つしかないのだ。

 教育の話までとなると、ケイコ一人には荷が重い気がした。

 そこまで考えて。

 ふと、ある人物を思い出したのだ。

 聡明な瞳をした──ウメという女性だった。