アリスズ


 近隣管理室は、都の内畑と外畑、隣領土までを管理する部署だという。

 ケイコが余り遠くまで行かずに済むように──そんなアディマのワガママを、リサーが聞き入れて判断した結果が、そこだったのだ。

 思えば、子供じみたワガママだった。

 ケイコの能力は、こんな狭い範囲だけで済ませていいものではないというのに。

 室長は、顔色の悪いやせた男だった。

「『連作障害』の資料を提出したのは、この室だと聞いたが」

 アディマは、軽く部屋の中を見回した。

 だが、ケイコの姿はない。

「ええ…まだ実際に試験をしたワケではありませんが…税務府から依頼があれば、外畑で試験する予定にしています」

 室長は、淡々と語った。

「税務府から…?」

 アディマは、微かにその音に非難を込める。

 君は農林府の役人ではないのか、と思ったのだ。

「そうです…我々は、外畑の管理を任されてはおりますが、その土地を好きに使うことは出来ません。違うことをするためには、上からの命令が必要なのです」

 暗に彼は、農林府の上の役人では、この命令は出せないと言っているのだ。

「だから…税務府に流したのか」

 アディマは、微かに笑った。

 そうか、と。

 何故、税務府が連作障害のことを知っていたのか不思議だったのだ。

 あの府長が、自ら持っていくくらいの気概があれば、とっくに外畑での試験を指示しているだろう。

「君は、連作障害の対処法に期待をしているというわけだな」

「全ては、ただこの国のためです…」

 室長は、それが悪いことであるかのように言う。

 何を、悪いことがあろうか。

 悪いのは、それを悪いと思わせるような体制の方である。

「連作障害の報告を出した者は、誰だ?」

 知っていながら、アディマは聞いた。

 すると。

 室長は、視線を空白の机の方へと向けるのだ。

「いま…税務府の方に行っております」

 アディマは、目を閉じた。

 その声音に微かに含まれる、不思議な響きを聞き分けるために。