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農林府は、突然のアディマの登場に、大きくざわついた。
府長が、すっ飛んできた。
閑職というワケではないが、気の長い職場であることは確かだ。
そんなところに、イデアメリトスの世継ぎが抜き打ちで訪問してくるとは思ってもみなかったのだろう。
「旅をしている間、多くの農村や畑を見てきたよ」
府長室で、アディマは旅の記憶を踏まえて、府長と話し始めた。
「穀物の収穫量が、だんだん落ちているようだね。それは、都の外畑の収穫量の報告でもはっきり出ているだろう?」
数字だけならば、アディマは宮殿で嫌と言うほど見ている。
それを、実際に自分の目で見たのが、神殿への旅路だった。
「はっ…しかし、作付を減らしたワケでもなく、農民たちも毎年同じように作っているとしか言わず…何故減っていっているのかまったくもって謎でして」
府長は汗をかきながら、必死に言い訳を始める。
アディマは、自分の膝の上に乗せた指を、わずかに動かした。
「『連作障害』という言葉を、聞いたことがあるかな?」
言葉を作ったのは、ケイコ。
彼女に、その連作障害を取り除かせる技術を広めてもらおうと、農林府に送ったのだ。
「あ、はっ、そういえばそのような言葉の書いてある書類が上がって参りましたが…ええと…そう、税務府が聞きつけて、その書類を持って行ってしまったのです」
既に管轄は、税務府になったとでも言いたげである。
アディマは、内心でため息をついていた。
役所というものを、彼が肌で体験したのはこれが初めて。
成人するまでは、紙の上の学問以外、触れることが出来ない分野だったせいである。
だから、ケイコの苦労を、いまようやくにして知ったのだ。
画期的な手法にも関わらず、農林府は誰もそれに興味も持たなかったのか。
まだ、少しでも多くの税収を上げようと努力している税務府の方が、熱意がある。
「連作障害の書類を提出した部署を、少し見せてもらおう」
アディマは、立ち上がった。
『農業を技術に』。
それが、ケイコの目指す未来。
だが、この役所は──まだその技術を受け入れる素養がなかったのだ。
農林府は、突然のアディマの登場に、大きくざわついた。
府長が、すっ飛んできた。
閑職というワケではないが、気の長い職場であることは確かだ。
そんなところに、イデアメリトスの世継ぎが抜き打ちで訪問してくるとは思ってもみなかったのだろう。
「旅をしている間、多くの農村や畑を見てきたよ」
府長室で、アディマは旅の記憶を踏まえて、府長と話し始めた。
「穀物の収穫量が、だんだん落ちているようだね。それは、都の外畑の収穫量の報告でもはっきり出ているだろう?」
数字だけならば、アディマは宮殿で嫌と言うほど見ている。
それを、実際に自分の目で見たのが、神殿への旅路だった。
「はっ…しかし、作付を減らしたワケでもなく、農民たちも毎年同じように作っているとしか言わず…何故減っていっているのかまったくもって謎でして」
府長は汗をかきながら、必死に言い訳を始める。
アディマは、自分の膝の上に乗せた指を、わずかに動かした。
「『連作障害』という言葉を、聞いたことがあるかな?」
言葉を作ったのは、ケイコ。
彼女に、その連作障害を取り除かせる技術を広めてもらおうと、農林府に送ったのだ。
「あ、はっ、そういえばそのような言葉の書いてある書類が上がって参りましたが…ええと…そう、税務府が聞きつけて、その書類を持って行ってしまったのです」
既に管轄は、税務府になったとでも言いたげである。
アディマは、内心でため息をついていた。
役所というものを、彼が肌で体験したのはこれが初めて。
成人するまでは、紙の上の学問以外、触れることが出来ない分野だったせいである。
だから、ケイコの苦労を、いまようやくにして知ったのだ。
画期的な手法にも関わらず、農林府は誰もそれに興味も持たなかったのか。
まだ、少しでも多くの税収を上げようと努力している税務府の方が、熱意がある。
「連作障害の書類を提出した部署を、少し見せてもらおう」
アディマは、立ち上がった。
『農業を技術に』。
それが、ケイコの目指す未来。
だが、この役所は──まだその技術を受け入れる素養がなかったのだ。


