アリスズ


 ケイコに会いたい。

 一人になった部屋で、アディマはそう思った。

 彼女が、既に都に戻っていることは、叔母からの手紙で明らかになっていたのだ。

 妊娠した身で、歩いて都に戻ったという。

 農林府の仕事も、おそらくしていることだろう。

 心配にならないワケがない。

 たとえ。

 たとえ、それがケイコにとっていらぬ心配であったとしても、だ。

 リサーとの会話も、彼を少し気欝にさせていた。

 農林府ならば、行けないことはなかった。

 アディマは、誰もが認めるイデアメリトスの唯一の世継ぎとなったのだ。

 上の二人は失敗し、下の一人はその権利を失ったのである。

 もはや、父の子でイデアメリトスを名乗れるのはアディマだけ。

 その世継ぎが、役所を視察するのは、おかしな話ではない。

「ダイエルファンを呼んでくれ」

 彼は、今では特進し、近衛隊の隊長になっている。

 本人には、相当座りの悪い椅子のようだ。

 だが、慣れてもらわなければならなかった。

 アディマが父親から代を引き継ぐ時には、彼は賢者の地位に座らなければならないのだから。

 ダイは、しばしの後に現れた。

 膝をつき、臣下の礼を取る彼が視線を上げた時、アディマはその顔つきに目を細めた。

 役職は、時に人を育てる。

 彼は、隊長という肩書きを与えられ、それにふさわしい者になろうとしているのだ。

「ダイエルファン…散歩に行こうか。役所巡りという、お堅い散歩だが」

 ソファから立ち上がり、アディマは息を吸った。

 自分も、イデアメリトスの次の太陽として、ふさわしい者にならなければならない。

 ケイコ…。

 曇りでも雨でも、きっと彼女は笑っているだろう。

 だが。

 イデアメリトスの太陽の下で、一番笑っていて欲しいと──そう思っていた。