アリスズ


「我が君…」

 がっくりと、リサーの両の肩が落ちる。

 アディマは、ゆったりとソファに腰かけ、そんな彼の様子を見ていた。

 今日、ついにイデアメリトスの極秘の話を、リサーにしたのだ。

 極秘──それは外部の血を入れるために、ケイコとの間に子を成すこと。

「前代未聞です…」

 苦悩の声だった。

 この件に関しては、父と叔母も噛んでいる。

 だから、リサーは異を唱えることは出来ない。

 異を唱える以外の言葉を探して、ようやくそれを引き出してきたというところか。

「…子は、認められましょう」

 黙ったままのアディマに、リサーは言葉を続ける。

「いえ、子以外は認めてはならないのです」

 イデアメリトスともあろう方が、それをお分かりにならないはずがない。

 そう、彼は厳しい表情になった。

 ああ。

 何を言いたいのか、分かっている。

 もし、外部の妻を認めたならば、貴族たちが、我先にと自分の娘を妻候補に差し出してくるようになるだろう。

 アディマの結婚が、政争の道具になるということだ。

 これまで、暗黙の了解でイデアメリトス同士の結婚であったため、他の貴族は何もそれについて口出しは出来なかった。

「…彼女を大事に思っておられるのでしたら、子のみお認めになられませ」

 そこで初めてリサーは、ケイコを天秤に乗せる。

 アディマは、瞼でその音に反応した。

「妻とお認めになられたら…貴族たちが絶対に黙っていますまい。暗殺を企てる者も出てくるでしょう。彼女が死ねば、自分の娘を新しい妻として差し出せるのですよ?」

 この男が、ケイコのことを考えた発言をするとは思わなかった。

 こう言えば、アディマでさえ折れずにはいられないだろう──そう考えたに違いない。

「そうか…」

 ようやく、反応の言葉を返す。

「では…僕は生涯独身を貫こう」

 子のいる独身か。

 青ざめるリサーを前に、アディマはそんな自分の肩書きに薄く笑ったのだった。