アリスズ


 ネイディに室長を預けている間に、こっそり景子は厨房へと向かった。

 彼の部屋から借りてきた、空の水差しを持って、だ。

 景子は、旅をしている間、あちこちの屋敷に一時的に泊めてもらうこともあった。

 特に、イエンタラスー夫人の屋敷では、平気で厨房にも出入りしていたのである。

 どこの屋敷の厨房も、さしたる差はなかった。

 そこで、彼女は使用人に頼み、砂糖と塩を分けてもらい、水差しの中に簡単なスポーツ飲料をこしらえたのだ。

 水分と栄養が必要だと思った。

 室長は、ほとんど汗をかいていない。

 既に、脱水症状に近いはずだ、と。

「おい、僕を一人にするなよ」

 戻ると、既に着替えは終わっていたが、ネイディはおかんむりだった。

「ああ、ごめんね…ちょっと室長の身体を起こすの手伝って」

 わびつつも、景子は次のお願いごとを軽く上積みする。

 何でだろう。

 本当に、ネイディには頼みやすいというか、頼みやすい気が出ているというか。

「いい加減にしろ」

 と、言いながらも、やっぱり彼は手伝ってくれるのだ。

「室長、少し水を口に入れますからね」

 ネイディに支えさせた身体を、彼女も片手で補助しながら、杯を唇にあてる。

 ゆっくりゆっくり、休み休み流し込む。

 それを何回か繰り返して、再び横たえる。

 額を濡らした布で冷やしてしばらくすると、ようやく彼の顔にうっすらと汗が浮かんだ。

 景子は、それに少しだけほーっとした。

 彼の身体が、いまの自分の状態をどうにかしようと、動き始めたのが分かったからだ。

 光を、見た。

 爆ぜる光は、そのままではあったが、さっきよりも間隔は長くなってきている。

「もういいだろう?」

 ネイディは、早く出て行きたそうだ。

 景子の視線の端で、ゆっくりと光が点滅した。

「う、うん…でも、もう少し…」

 せめて。

 光が爆ぜなくなるまで。