アリスズ


「アディマ…」

 景子は、彼に抱かれていた。

 明るいから恥ずかしいとか、そんな感覚はもう、熱にうかされて溶け落ちている。

 素肌を触れあわせ、指を絡め取られ、唇の感覚がなくなるほどにキスをした。

 アディマは、長い間彼女を離さなかった。

 思いを遂げても遂げても、彼は景子を慈しんだ。

 だが。

 日が暮れる。

 太陽は隠れ、部屋をどんどん闇に染めて行く。

 夜は。

 この国にとって、夜は不吉なのだ。

 契りを交わしたら、最初の日は闇に支配される前に、自室に戻ることになっている。

 そうロジューに聞いた。

「アディマ…帰らなきゃ」

 鈍く疼く身体の奥と、生々しい敷布の冷たさに景子は身をよじる。

「ああ…」

 なのに、彼は答えながらも彼女の額に口づけた。

「アディマ…」

 手を取られる。

 アディマはその指先にさえ、唇を押しあてるのだ。

 景子の全てを、その唇で覚えておきたいかのように。

「ケイコ…愛しているよ」

 その唇が。

 おそらく、初めて。

 愛の言葉を、囁いた。

 これまでずっと、名前を呼ぶ声や、瞳や行動で、彼は愛を伝えてくれていたのだ。

 だからこそ。

 この、初めての言葉は、景子の胸に深くしみ込んだのだ。

 二つに離れた身体は、とても寂しく感じられ、身支度を整えようとする指が、うまく動かない。

 元々、彼女は病み上がりだったのだ。

 体力の落ちた身体で、アディマと契りを交わしたのである。

 よろよろでも、全然おかしくなかった。

 帰ら、なきゃ。

 西翼までの、長い廊下が待っていることに気が遠くなりながらも、景子は彼の部屋を出ようとした。