アリスズ


「は?」

 自分の中で、大きな災害が発生していることを告げる警告ランプが、ぴかぴかと光り続ける。

 そのランプの意味を読み切れず、景子はとぼけた声を出してしまった。

「とりあえず、先に子を産めと言っている」

 だが、ロジューはわずかの誤解も許さないかのように、もう一度それを繰り返すのだ。

 真昼間。

 外から、中暑季の太陽がサンサンと差し込む汗ばむ気候の中、景子は気温以上の汗をだらだらと流す羽目となった。

「本当に、イデアメリトスの魔法を持つ子が、産まれるかかどうか分からんからな…ああ、心配するな。もし、魔法を持たぬ子が産まれたとしても、一生不自由はさせん」

 ロジューが。

 もし、彼女が男だったとしたら、これほどばっさりと、相手の女に言い放つのだろうか。

 景子は、うまく言葉を受け取れないまま、慌てながら周囲を見回した。

 誰かに、聞かれていないかと心配になったのだ。

 途中、人通りの多かったところと違って、ここは人の気配が少ない。

 東翼は、イデアメリトスの子たちが住まう場所と聞いていた。

 既に、そこにいま住んでいるのはアディマだけ──そのせいで、人が少ないのだろうか。

 だから、ロジューのめちゃくちゃな話を、いま聞いているのは景子だけだった。

 いや。

 もう一人いた。

「叔母上…もう少し、柔らかい言い様がありませんか?」

 扉が、開いたのだ。

 そう。

 ここは、アディマの部屋の前だったのである。

 扉の前で、こんなやりとりをしていたのだ。

 聞いていないはずがなかった。

「ないな。どんな言い方をしようと、真実は変わらん…さあ、説明して連れて来てやったぞ。私は帰る」

 言いたいことを言い終わるや、ロジューは東翼を後にしようとする。

 説明して連れて来る──その言葉の中には、矛盾がしっかりと刻まれていたが。

 強引に連れて来ながら、最後の最後で説明が始まったような。

 いや、そんな矛盾よりも。

 ロジューは、とっとと去ってしまったのだ。

 目の前にいるのは、アディマ。

 あっという間に。

 二人きりになってしまった。