アリスズ


「ああそうか…命を狙われているんだったな、私は」

 自分の行動の浅はかさに気づいたらしく、ロジューは苦笑気味に笑った。

 ついさっきまで、兵士を引き連れて歩いていたというのに、なかなか自覚が持てないようだ。

 しかし、景子はそれどころではなかった。

 何か、おかしい。

 猛烈な違和感が、自分を包むというのに、それをうまく思考にすることが出来ない。

 一歩、ロジューへと歩み寄る。

「まあ、大丈夫だろうが、お言葉に甘えるか…先に飲んでいいぞ」

 意地悪な笑みを向けながらも、彼女は水を注いだ杯の匂いを嗅いだ後、彼女へと差し出す。

 毒など入っていないと、その瞳は確信しているようだった。

 景子が、重たい自分の腕で、その杯を受け取った次の瞬間。

 ゴンゴンゴン!

 物凄い音で、ノッカーが打ち鳴らされた。

「誰だ!」

 その乱暴な音に、ロジューは厳しい声を返す。

「ダイエルファンです…失礼致します」

 扉が──開いた。

 ダイ、だ。

 あのダイが、来たのだ。

 景子は、共に旅をした男を振り返りたかった。

 なのに。

 なのに、自分の身体がうまく動かない。

「愚甥の護衛か…こんな不躾な真似をするとは、どういうことだ!」

 ロジューの怒鳴り声に、しかし、ダイの気配は動かない。

 部屋の内側に入り、ただ立っているのが、振り返らなくても分かる。

「ここで沙汰を待てと…何ひとつ、動かすなと申し付かりました」

 確固たる意思の声に、ロジューが目を吊り上げようとした直後。

 その目が、はっと景子に向いた。

 あれ。

 何で、私。

 水を飲もうとしてるんだろう。

 ああ、そうか。

 この部屋の、何かがおかしかったんじゃない。

 私自身が──おかしかったんだ。