アリスズ


「何を寝こけている!」

 バァン!

 部屋が蹴り開けられた音と、その後の大声で、景子は飛び起きた。

 あれ?

 いつの間にか、眠ってしまったようだ。

 さっきの軍令府の尋問で、疲れてしまったのだろうか。

「私の従者のくせに、主人を放っておいて寝ているとは、いい度胸だな」

 そんな彼女の背後には、数人の兵士がついている。

 おそらく、ロジューの警護の人間だろう。

「す、す、すみません」

 慌てて部屋を出る。

 そして、一緒に彼女の部屋へと向かった。

「警護は、もういい…下がれ」

 ドアを開け放ちながら、彼女は後方の兵士へと語りかける。

 その背に、怒りはない。

 部屋は、安全なようだ。

 すたすたと入っていく彼女に、景子はほっと胸をなでおろした。

 それじゃあ、と。

 景子は兵士さんたちに会釈をしつつ、扉を閉める。

 あれ?

 部屋の中を見回した景子は、何か違和感を感じた。

 何だろう。

 彼女は、テーブルの上の水差しを見ていた。

 水は光らないし、水差しも光らない。

 でも、何故か自分の目が、そこに吸い付いて離れないのだ。

「何だ? 喉が渇いたのか? ああ、そうだな…私も喉が渇いた。式典は太陽の真下でやるせいで、喉がひどい有様だ」

 景子の視線に気づいて、ロジューは水差しに歩み寄る。

 彼女に命じることもなく、さっさと杯に水を注ぐ。

「どうした?」

 杯を傾けかけた、ロジューを見つめる。

 何だろう。

 何か、もやもやする。

「毒見…しましょうか? それ…」

 自分の唇が──鉛のように重くなったのに気づいた。