アリスズ


 ノッカーが鳴った。

 景子は、びくっとどきっを両方味わうこととなる。

 もしかして、と。

 既に、ロジューは式典の準備を整えて出て行ってしまった。

 景子は同席できるはずもないので、しょうがなく自室にこもっているしかできないのだ。

 勝手に宮殿をうろつくワケにもいかないし、昨日の今日なのでおとなしくしておこうと、ちゃんと自重したのである。

 アディマ?

 9分9厘、ありえないことだ。

 だが、のこり1厘に賭けてみたくなる。

 何しろアディマは──魔法が使えるのだから。

「失礼する」

 しかし。

 その男の声は、神経質な響きを持っていた。

 誰でもなかった。

 知らない人だ。

「はい…」

 ソファから立ち上がりながら、景子は怪訝を隠せないまま立ち上がった。

 そして、緊張もしていたのだ。

 ロジューが、あんな目にあったばかりなのだから。

「軍令府の者だ。ソレイクル16殿下の件について、話を聞かせてもらおう」

 う、うわぁ。

 景子は、思い切り身体が逃げる自分を止められない。

 神経質な声、という印象は、間違いなかった。

 日本のおまわりさんだって、いきなりこんな鋭い声を景子に向けたりしないだろう。

 は、は、犯人だと思われてる?

 と、景子が被害妄想に駆られずにいられないほどの怖さだ。

 日に焼けているだけ、農林府の上司よりマシには見えたが、その痩せた身体と鋭い眼光に、彼女は委縮していく。

 ソレイクル16殿下──景子の記憶が正しいのならば、ロジューのこと。

 彼女の事件に、軍令府が関わり始めたのか。

 アディマは、本気でイデアメリトスの身内を捕まえる気なのだ。

「ど、どうぞ…」

 それならば、多少怖くても、景子はこの男に協力せざるを得ない。

 祭の成功と、ロジューの身の安全のために。

 だが。

 じーっと睨まれ続けるだけで、景子の寿命は一秒ごとに縮んでいくように感じたのだった。