アリスズ


「ケイコ…大丈夫か?」

 空気に混じる湿気を感じられてしまったのか、はたまたアディマは暗い中でも目が見えるのか。

 彼は、心配したように駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫…アディマに会ったら、ほっとしちゃって…大丈夫」

 慌てて、自分の目を拭おうとした。

「ケイコ…何か怖い思いをさせたんだな…すまない」

 その指先が、彼女に触れた時。

 分かった。

 ああ、この身体はただの入れ物なのだと。

 魔法で作られた、身体なのだろうか。

 ということは、さっきのカナルディも、その前の長も。

 だから、イデアメリトスの光を感じなかったのか。

 けれども。

 アディマの優しさは伝わってくる。

 ベッドの上に、彼が乗り上げるようにして抱きしめてくれることさえ、恥ずかしいものには感じなかった。

 心だけをこうして、景子のために飛ばしてきてくれたのだ。

 そこに、本当は生身がないのだと分かると、何故か彼女もその身体を抱き返せた。

「大丈夫…本当に怖かったのは、私じゃないから…叔母様を守ってあげて」

 危険なのは、ロジューだ。

 景子は、傍であわあわしていただけ。

「話は父から聞いたよ…叔母上様のことなら、心配はいらない…カンの鋭い方だし、身を守る魔法も使える」

 景子を抱きしめる腕が、少し強まった。

「だけど…叔母上様が狙われた理由が本当なら…ケイコが狙われていてもおかしくなかったんだ」

 もっともっと、腕に力がこめられる。

「僕は、景子のことを、父上と叔母上様にしか言わなかった…もし、最初に僕が考えていたように、皆に伝えていたら…」

 景子を失ってしまうかもしれない──それを、アディマは恐れたのだ。

 ああ。

 この腕の力と比例するほどに、思いの強さが伝わってくる。

 景子の胸を締め付け、呼吸すら苦しくするほど。

 明日のことなど、分からない。

 離れてしまったら、次の再会など誰にも保証されない。

 それが、この世界で骨身にしみて知ったこと。

 だから。

 だから──言いたいことは、言える内に伝えておかなければならないのだ。

「ありがとうアディマ……あなたのことが…大好きよ」