アリスズ


 叔母と甥って──結婚出来るんだ。

 だらだらと、景子はいやな汗をかき続けた。

 そういえば、彼女のいた世界でも、血族のどこまでが結婚対象であるかは、国によって違う。

 日本だって大昔の話だが、すごい身内結婚をしていた時代があるではないか。

 小うるさい姪のカナルディを部屋から放り出して、ロジューはソファへと戻って来る。

「どうにも、年の合う血の近い者が少ないようでな…私が子を作らなかったせいもあるが」

 よっと。

 向かいのソファに座りながら、彼女は視線をこちらに向けた。

 景子は、自分がこわばったままの顔で止まっていることに気づいていたが、だからといって戻せるものでもない。

 顔の筋肉が、言うことを聞かないのだ。

「髪を伸ばせぬ者は、イデアメリトスとは言え、老いるのが早いからな。いっそ、髪の長い未婚の私を嫁にして、血の濃い子供をぽろぽろ産ませようとでも思っているのだろう」

 そんな彼女を楽しむように、ロジューの言葉はだんだん意地悪さを帯びてくる。

「だが、それで分かったぞ」

 彼女は、その意地悪さをすぅっと引っ込めた。

「要するに…私が、あの甥の妃になるのは許せない…そう考えているイデアメリトスがいるってことだ」

 随分、やり方が荒っぽいがな。

 ということは。

 他の、お嫁さん候補が怪しいってこと?

 ロジューが第一ということは、他に第二、第三の候補がいるということである。

「第二候補が、7歳。第三候補が5歳…しかしまあ、あの甥のこれからの時間を考えれば、楽に待てるからな」

 昔の殿さまの政略結婚などでも、そんな年齢差は当たり前だったではないか、と自分に言い聞かせる。

 しかし、ロジューがアディマの嫁になることについて、承諾するとはとても思えなかった。

 イデアメリトスの男と結婚するのはまっぴらだと言って、ここまで独身できた女性である。

「とりあえず…」

 景子の思考をよそに、ロジューが話を続けた。

「とりあえず…第一妃候補は、辞退してこなかったがな」

 だが。

 彼女の答えは、景子の予想など遥か彼方にぶっとばしていた。