アリスズ


「こんな夜更けに、何事だ…カナルディシーデンファラム」

 小さい訪問者に、ロジューは優しくはなかった。

 アディマに対してもそうだが、彼女は誰に対しても態度がそうだ。

 相手のサイズが小さくても、まったくもって手加減がない。

 ようやくつまみ上げた身体を床に戻しながらも、不機嫌な態度は崩さなかった。

「そうそう、叔母上様にすごい情報を持ってきたのよ、私!」

 カナルディと呼ばれた姪は、胸を張る。

 あれ?

 景子は、微かな違和感を覚えた。

 この子──ぴかぴか光ってない。

 同じことが、イデアメリトスの長の時もあった。

 おそらく、どうにかして自分を光らないようにすることが出来るのだろう。

 さすが、魔法一族。

 不思議だ。

「すごい情報?」

 甲高い声のカナルディを、とりあえずロジューは部屋に放り込むことにしたようだ。

 そして、扉を閉ざす。

 すごいイデアメリトスの情報を、人に聞かれる範囲で語られても困るからだろう。

 って、ちょっと待って。

 私も出なきゃ。

 景子が、ソファから下りて部屋から逃げるよりも。

 カナルディのおしゃべりな唇の方が、到底速かった。

「あのね、あのね…叔母上様! 叔母上様が、お兄様のお妃第一候補なんだって!」

 空気が。

 止まった気がした。

 部屋の中は、ずっとロジューの魔法で涼しい空気が動いているというのに、一瞬景子の周りだけ、音と涼しさが消えたのだ。

 じっとり。

 背中に、嫌な汗が伝う。

「ああ…何だ、そんな事か。さっき兄者から聞いた」

 あっさりとロジューは──姪の大ニュースを蹴っ飛ばしたのだった。