☆
梅をベッドに連れて行くまで、大変だった。
アディマが離れた途端、女主人が男の背中の梅に張り付いて離れなかったからだ。
どうやら、彼女の身につけている衣装が、気になって気になって仕方がないようで。
袂や生地を確かめたり、帯をひっぱったり、背中から下ろして前の方から見ようとしたりするのを、はらはらしながら景子は見ていた。
本当に、悪気がないのが困る。
自分の好奇心を、満たしたくてしょうがないのだ。
男も、女主人を無碍には出来ないようで、なかなか梅をベッドへ運べないでいる。
言葉が通じないのが、とてもとてももどかしい。
あわあわと、景子がしていると。
菊を、先に置いてきた大男が戻ってくる。
返り血まみれの菊の袴には、さすがの女主人も近づかなかったからだ。
その大男が。
一度、うるさそうに女主人を見た後。
「…──」
ぼそりと何かをつぶやいて、梅を奪ってくれたのだ。
ああっ。
ぱぁぁっと、景子は顔を輝かせた。
いい人だ。
この大きな人は、いい人だっ。
彼女は子犬のように跳ねながら、大男についていく。
この一瞬だけは、疲れも忘れるほどだった。
菊の隣のベッドへ梅を下ろし終えると、男はそのままズカズカと部屋を出て行こうとした。
「ま、待って待って」
その身体を引きとめる。
予想外だったのか、少し驚いた目で彼は振り返った。
そして景子は、アディマにしたのと同じように、自分を名乗った。
男は復唱こそしなかったが、それに頷いてくれる。
「…ダイエルファンティアムス」
長い名前だったが、景子は何とかヒアリングできた。
だが、それを何度も呼べるとは思えなくて。
「ダイ…さん?」
と、日本人らしく敬称をつけたら。
もう一度、名前を繰り返されてしまった。
あ、いや、聞き取れなかったわけじゃなくて。
でも、呼び捨てには出来ないし。
えーと、えーと。
景子の苦労は、まだまだ続くのだった。
梅をベッドに連れて行くまで、大変だった。
アディマが離れた途端、女主人が男の背中の梅に張り付いて離れなかったからだ。
どうやら、彼女の身につけている衣装が、気になって気になって仕方がないようで。
袂や生地を確かめたり、帯をひっぱったり、背中から下ろして前の方から見ようとしたりするのを、はらはらしながら景子は見ていた。
本当に、悪気がないのが困る。
自分の好奇心を、満たしたくてしょうがないのだ。
男も、女主人を無碍には出来ないようで、なかなか梅をベッドへ運べないでいる。
言葉が通じないのが、とてもとてももどかしい。
あわあわと、景子がしていると。
菊を、先に置いてきた大男が戻ってくる。
返り血まみれの菊の袴には、さすがの女主人も近づかなかったからだ。
その大男が。
一度、うるさそうに女主人を見た後。
「…──」
ぼそりと何かをつぶやいて、梅を奪ってくれたのだ。
ああっ。
ぱぁぁっと、景子は顔を輝かせた。
いい人だ。
この大きな人は、いい人だっ。
彼女は子犬のように跳ねながら、大男についていく。
この一瞬だけは、疲れも忘れるほどだった。
菊の隣のベッドへ梅を下ろし終えると、男はそのままズカズカと部屋を出て行こうとした。
「ま、待って待って」
その身体を引きとめる。
予想外だったのか、少し驚いた目で彼は振り返った。
そして景子は、アディマにしたのと同じように、自分を名乗った。
男は復唱こそしなかったが、それに頷いてくれる。
「…ダイエルファンティアムス」
長い名前だったが、景子は何とかヒアリングできた。
だが、それを何度も呼べるとは思えなくて。
「ダイ…さん?」
と、日本人らしく敬称をつけたら。
もう一度、名前を繰り返されてしまった。
あ、いや、聞き取れなかったわけじゃなくて。
でも、呼び捨てには出来ないし。
えーと、えーと。
景子の苦労は、まだまだ続くのだった。


