☆
アディマアディマアディマ!
領主の館の門に、たどりついた時の景子の頭の中は──それだけ。
金属のノッカーを、気づいたら強く打ち鳴らしていた。
落ち着かない様子の使用人が出てきて、それに更に景子は落ち着かなくなる。
「あ、あのっ、アディマ…じゃない、イデアメリトスは…ぶ、無事ですかっ!?」
門ごしに、彼女は舌を振り回した。
「え? 刺されたのって、イデアメリトスの御方なのか?」
ようやく景子に追いついたネイディが、心底ぎょっとした声をあげる。
彼は、知らないのだ。
どれだけ、大変な旅路をアディマが歩いてきたのか。
だから、刺されたと聞いて、誰なのか連想出来なかったのである。
「ぶ、無事ならいいんです、無事なら…ぶ…」
怪訝に景子を見る使用人の、唇は一向に開く気配がなかった。
完全に、不審者の扱いなのだ。
この屋敷に景子がとどまったのは、たった一日。
しかも、もはや半年ほど前の話だ。
忘れられていても、しょうがないだろう。
早く。
早く、無事だと言って。
歯の根が合わなくなる。
がたがたと、身体が震えるのだ。
「我々は、農林府の役人です。今朝方、イデアメリトスの御方のご出発の時にお会いしまして…街道で刃傷沙汰があったと聞いて、ご無事かと心配しております」
そんな景子の後ろから。
ネイディが、まったくとでも言わんばかりの音を含みながら、世にも美しい役所言葉を並べたのである。
使用人は、景子を見て。
その腕の、農林府のスカーフを見た。
そして。
門を開けないまま──こう言った。
「刺されたのは…護衛の方です」
ほっと。
景子は、ほっとしようとしたのだ。
だが。
「ダイ…さん」
めまいが、した。
アディマアディマアディマ!
領主の館の門に、たどりついた時の景子の頭の中は──それだけ。
金属のノッカーを、気づいたら強く打ち鳴らしていた。
落ち着かない様子の使用人が出てきて、それに更に景子は落ち着かなくなる。
「あ、あのっ、アディマ…じゃない、イデアメリトスは…ぶ、無事ですかっ!?」
門ごしに、彼女は舌を振り回した。
「え? 刺されたのって、イデアメリトスの御方なのか?」
ようやく景子に追いついたネイディが、心底ぎょっとした声をあげる。
彼は、知らないのだ。
どれだけ、大変な旅路をアディマが歩いてきたのか。
だから、刺されたと聞いて、誰なのか連想出来なかったのである。
「ぶ、無事ならいいんです、無事なら…ぶ…」
怪訝に景子を見る使用人の、唇は一向に開く気配がなかった。
完全に、不審者の扱いなのだ。
この屋敷に景子がとどまったのは、たった一日。
しかも、もはや半年ほど前の話だ。
忘れられていても、しょうがないだろう。
早く。
早く、無事だと言って。
歯の根が合わなくなる。
がたがたと、身体が震えるのだ。
「我々は、農林府の役人です。今朝方、イデアメリトスの御方のご出発の時にお会いしまして…街道で刃傷沙汰があったと聞いて、ご無事かと心配しております」
そんな景子の後ろから。
ネイディが、まったくとでも言わんばかりの音を含みながら、世にも美しい役所言葉を並べたのである。
使用人は、景子を見て。
その腕の、農林府のスカーフを見た。
そして。
門を開けないまま──こう言った。
「刺されたのは…護衛の方です」
ほっと。
景子は、ほっとしようとしたのだ。
だが。
「ダイ…さん」
めまいが、した。


