☆
農村の仕事が終わり、景子たちが町に戻って来た時は、既に夕暮れで。
この町にある農林府の支部に寄り、そこに今夜は泊めてもらう予定だった。
だが。
町は、いやに騒然としていた。
さっきから、人々が集まっては噂話に興じているのだ。
「何かあったのかな?」
ネイディが、顎を巡らしている間に、景子は既にその辺のおばさんを捕まえていた。
彼に、『速ッ!』という目で見られるが、気にしていない。
超ド庶民の彼女には、体裁など関係ないのだ。
「それがね、都への街道で、人が刺されたって言うんだよ」
おお、怖い怖い。
おばさんは、沈み行く太陽を仰ぐ。
「あんな警備の厳しい街道で…穏やかじゃないな」
聞き耳を立てていたネイディが、表情を曇らせてぶつぶつと呟いている。
だが。
景子は、それどころではなかった。
足元に、さぁーっと血が引いていく。
安全な道だと、聞いていた。
だから、景子は一人でだって行こうとしていたのだ。
だが。
誰かが刺されたという。
誰か?
今日、あの街道を通っていた一行が、いたではないか。
刺される理由を、一番多く持っている人間が。
「ネ、ネイディ…りょ、領主の館…館に行かなきゃ!」
震える唇は、思いと同じ速度では動かない。
舌が回らずに、噛みそうになる。
「は? なんで?」
景子の動揺の意味を気づかない彼は、とぼけた声を出す。
ああ、もう!
説明できる舌を、いまの彼女は持っていなかった。
こらえきれずに、景子はだっと駆け出して。
確か、こっち。
足もまた、彼女の心の速度についていけず──もつれそうになった。
農村の仕事が終わり、景子たちが町に戻って来た時は、既に夕暮れで。
この町にある農林府の支部に寄り、そこに今夜は泊めてもらう予定だった。
だが。
町は、いやに騒然としていた。
さっきから、人々が集まっては噂話に興じているのだ。
「何かあったのかな?」
ネイディが、顎を巡らしている間に、景子は既にその辺のおばさんを捕まえていた。
彼に、『速ッ!』という目で見られるが、気にしていない。
超ド庶民の彼女には、体裁など関係ないのだ。
「それがね、都への街道で、人が刺されたって言うんだよ」
おお、怖い怖い。
おばさんは、沈み行く太陽を仰ぐ。
「あんな警備の厳しい街道で…穏やかじゃないな」
聞き耳を立てていたネイディが、表情を曇らせてぶつぶつと呟いている。
だが。
景子は、それどころではなかった。
足元に、さぁーっと血が引いていく。
安全な道だと、聞いていた。
だから、景子は一人でだって行こうとしていたのだ。
だが。
誰かが刺されたという。
誰か?
今日、あの街道を通っていた一行が、いたではないか。
刺される理由を、一番多く持っている人間が。
「ネ、ネイディ…りょ、領主の館…館に行かなきゃ!」
震える唇は、思いと同じ速度では動かない。
舌が回らずに、噛みそうになる。
「は? なんで?」
景子の動揺の意味を気づかない彼は、とぼけた声を出す。
ああ、もう!
説明できる舌を、いまの彼女は持っていなかった。
こらえきれずに、景子はだっと駆け出して。
確か、こっち。
足もまた、彼女の心の速度についていけず──もつれそうになった。


