アリスズ


 明け方になって、ようやく町と呼べるところに到着したのだが、その頃にはもう景子の身体はヘトヘトだった。

 身体を使う仕事なので、体力には自信があったのだが、それでも精神的な疲れも一緒にどっと彼女に押し寄せていた。

 そのまま一行は、最初から決まっていたことのように道を進み、とある屋敷の前にたどりついたのだ。

 うわー、おっきー。

 いかにも、貴族のお屋敷と言った風体の門構え。

 その門の中から、さらに屋敷まで結構あるというから、本格的だ。

 テレビか漫画でしか見たことのないような、古めかしく、そして重厚な屋敷だ。

 その焦げ茶を中心とした外観のおかげで、景子の頭にはチョコレート菓子がよぎっていたのだが。

 おなか、すいたなあ。

 チョコレートの連想で、彼女はまた、とぼけたことを考えていた。

 屋敷から、使用人を山ほど従え、女主人らしき女性がすっ飛んでくる。

「───」

 女性は深々とアディマに腰をかがめた後、早口で梅をおぶっている男に言葉を投げ始める。

 それに、男は静かに応対をしていた。

 女主人の目が、そこでようやく景子に気づいたように視線を投げる。

 ひっ。

 その目にあったのは、驚きと──好奇。

 ぶっちゃけて言えば、珍獣を見るような目に近かった。

 あうあう。

 景子は、恥ずかしくなって、自分のエプロンを引っ張ったりした。

 そう。

 花屋のエプロンまで、したままだったのだ。

 どう考えても、景子の姿は浮いている。

 しかし、アディマの前で女主人は、自分の好奇を優先させたりはしないようだった。

 てきぱきと使用人に指示を出すと、彼らを屋敷へと案内し始めたのである。

 屋根のある家に入ると、自分がとてもとてもほっとしたことに気づいた。

 このまま、床でもいいから眠ってしまいたいほどだ。

 しかし、くったりとした梅と、ぐっすりと眠る菊が目に入る。

 彼女たちを、何とかしなければ。

 景子は、まだ眠るわけにはいかなかった。