アリスズ


「ブエルタリアメリー卿の紹介なんだってね」

 強くなってゆく日差しの中、貧乏くじを引いた男──ネイディと一緒に町を歩く。

 彼は、景子に対しての多少の好奇心を、隠すつもりはないようだ。

「はぁ…そういうことみたいですね」

 彼女は、曖昧に答えるしか出来ない。

 ブエルタリアメリー卿は、リサーの父親だが、景子が直接会ったことがあるわけではないのだ。

「一体、何を企んでるの? 卿のお墨付きがあれば、もっとすごい役所に入れるのに。農林府なんて、税務府くらいとしか大きな付き合いのないしょぼい役所だよ」

 農民からの嘆願書とか、整理しなきゃいけないし。

 ネイディは、うんざりした声を出す。

「え? 嘆願書とか来るんですか?」

 景子が食いついたのは、そこだった。

 農民の生の声。

 彼らが困って、中央にお願いを送るというのだ。

「大抵が、今年は不作だったから税金を減らして下さい、っていうのばっかりだよ。税金を少しでも減らしたい、奴らの手さ。税務府に言えってんだ」

 ぶつぶつ。

 ネイディは、随分ストレスがたまっているように見えた。

 あの上司と、そんな嘆願書に囲まれれば、そうなってしまうのかもしれない。

「不作…」

 またも、景子の食いつくところは違っていたが。

「確かに、年々収穫量が落ちているところが増えてるけど、それは僕らのせいじゃないだろ?」

 ぶつぶつの続く彼を横目に、景子の脳みそと目は違う動きをしていた。

 不作のいくらかは、連作障害対策で何とかなりそうだ。

 この国は、農業をまだ技術として見てはいない。

 農民の、経験と知識だけで行われている。

 工夫や改善の余地は、あきらかに多い。

 そして、景子の目は。

 都の、商業地域に向けられていた。

 野菜や果物の並ぶ市場に差しかかったのだ。

 その商品の光を、無意識に見つめていたのである。

 瑞々しい新鮮な野菜が、都で楽しめる。

 この、荷馬車しかない交通手段で。

 理由は、内畑とやらにあった。

 都の内部に、畑があったのだ。