アリスズ


「わぁ」

 景子は、案内された部屋に歓声をあげた。

 そこは、見事な使用人部屋だったのだ。

 やったぁ。

 ようやく、身分相応の部屋を得た事実に、景子は本当に喜んだのである。

 変な話だが、いままで待遇が良すぎて、本当に落ち着かないことが多かったのだ。

 ベッドとテーブルと椅子、服をしまう古びた家具と燭台。

 それだけしかないが、十分だった。

 窓を開けると、庭の隅が見える。

 しかし──暑い。

 都に近づくにつれ、分かってはいたことだが、初夏ほどの暑さだ。

 中暑季地帯、というところに都はあるという。

 日本で言えば、6~7月くらいの温度だろうか。

 1年中こんな暑さの中を人は生きているので、町の人の半分ほどはアディマのような肌をしていた。

 残りの半分も、どうしても日焼けの洗礼からは逃れられないようだったが。

 うう、もう結構焼けたなぁ。

 自分の両の手の甲を見ながら、景子は笑った。

 しかし、周囲の人がみないい肌の色をしているのだから、日本の感覚で恥ずかしがる必要はないように思える。

 シミという恐ろしい敵については、もはや考えないことにするしかない。

「明日、農林府に連れて行くことになるんだが…大丈夫かのう? あんたみたいなおじょうちゃんに、役人が勤まるかぁ?」

 案内してくれた初老の男が、うーんと部屋の入口で唸った。

 窓の外に目を奪われていた景子は、はっと振り返る。

 そんな相手に、にっこりしてこう言った。

「32です」

「へ?」

「32歳です、私」

 日本は、もう秋になっただろうか。

 だとしたら、景子には誕生日が来ているはず。

 だから、1つ年を足したのだ。

 一生、31歳と言っているのは詐欺だろうから。

 アディマに白状して以来、景子にとって歳の話はウィークポイントではなくなっていたのだ。

「32……」

 とても信じられん──男の顔には、そう書いてあった。