アリスズ


 早く、都に戻りたい。

 アディマは、そう願った。

 一歩でも遠く、ケイコをあの木から引きはがして、忘れさせたかったのだ。

 しかし、まだ十九になって間もない。

 二十歳にならなければ、アディマは都に入れないのだ。

 子供の身体の間にはなかった感情が、勝手に自分の中で育ってゆく。

 その育つ枝の先には、ケイコがいる。

「リサードリエック」

 夜番に、珍しくリサーが起きていた。

 ダイも起きているが、二人が仕事以外の話をすることはほとんどない。

 身分も階級も所属も、全て異なるからだ。

「これは我が君…眠れませんか?」

 女二人が、すやすやと眠っている姿をちらと見て、彼は近寄ってくる。

「いい…少し話をしたくてね」

 その動きを手で制し、アディマは二人の間に腰を下ろした。

「話…ですか」

 リサーは、微かな警戒を見せる。

 それも、しょうがないことだろう。

 ケイコたちが旅に加わってからというもの、アディマは彼を困らせ続けているのだから。

「ケイコを、農林府に置こうと思っているのだが…」

 言葉に、リサーは若干警戒を解いた。

「良い判断だと思います…後見が必要でしたら、私の父の名前を使われるとよいでしょう」

 微塵も反対する気配がないのは、彼がケイコの力を目の当たりにしてきたからであろう。

 そして、リサーは自分の父親を持ち出す。

 総務府の府長の後見であれば、十分な威光を持ってケイコを守るだろう。

「出来るだけ早く、彼女を都へ入れたい」

 何の障害もなければ、四カ月ほどで都に入れる。

 だが、アディマに付き合わせると、更に半年近く都の外で待たねばならないのだ。

「何故、急がれます?」

「ケイコの名前を、出来るだけ早く売るためだ」

 アディマが都入りすれば、世継ぎの話が動き出す。

 そうなる前に、父への手紙とケイコを、都に入れておきたかったのだ。

 ケイコが役に立つ者で、魔法の力を持ち、この国のいかなる勢力とも無関係であることが分かれば──父親を味方につけることが出来るかもしれない。

 それが、アディマが考えたことだった。