アリスズ


 ああ、疲れた。

 菊は、ゆっくりと脇の大きな石に腰掛ける。

 命のやりとりを、実践でしっかり身体に叩き込んだものの、決して楽なものではない。

 疲労感は、相変わらずだ。

 アルテンも、近くでぜいぜいと息をしながら膝をついている。

 後半、彼も戦いに加わったのだ。

 そんな二人を遠巻きに、たいまつを持った村人が見ている。

 自警団なのだろう。

 それぞれ、農具を武器代わりに手にしていた。

 盗賊は、11人。

 本気で、乱暴狼藉を働きに来たと思われる装備と人数だ。

 何を積んで行く気だったのか、荷車まで持参していた。

「すまない…」

 村人の間から出てきたのは、前にも会った行商人の男だ。

 雰囲気が違ったので、菊にはすぐには分からなかった。

「おそらく、オレを狙っていたんだろう。まいたはずだったが…本当にすまなかった」

 ああ。

 そして、雰囲気の違う理由が分かった。

 頭に、長い布を縛り付けていなかったからだ。

 その代わりにあるものは──綺麗にそりあげられた頭だった。

 この世界に来て、初めて見る坊主頭だ。

 飛び起きてきたせいで、布を縛りつける時間もなかった、というところか。

 別の家に、宿泊していたのだろう。

 潔い男だな。

 頭も、そして心も。

 狙われていたことなど、黙っていれば分からないというのに。

「いや…ちょうど──だ。食料をたくさん盗みに来たのかもしれん」

 収穫期、とでも言ったのだろうか。

 まだまだ、菊にとって言葉は難しい。

 村長は、行商人を慰めるように言った。

「ともあれ…皆無事で何よりだ…あんたらには礼を言わねばならんな」

 村長の言葉の向こう側から、行商人がこちらをまっすぐに見ている。

 清めていないため、鞘から出したままの定兼の刃を──目に焼き付けているように思えた。