☆
夜。
ようやく祭りは落ち着いて、景子はおばさんの家へと向かった。
おばさんは、始終上機嫌で、小さい家をまるごと彼女らに提供してくれたのだ。
旦那を早く亡くしていて、息子は一人いるが、19歳でちょうど旅に出ているという。
今日は、兄のところに泊めてもらうと、彼女は出て行った。
「見事だね」
小さい食卓の椅子に腰掛けながら、菊は目を細めながら景子を見る。
この手品のタネは、彼女にはバレているので、「そんな」と恥ずかしくなってうつむいた。
日本人だったから。
植物に携わる仕事をしていたから。
そんな景子の恥ずかしさを、もう一人理解してくれない人がいた。
「質問に答えてもらおうか…」
リサーだ。
彼女は、びくぅっと飛び跳ねる。
尋問されるかと、思ったのだ。
それくらい、上から目線の言葉だったのである。
菊が、無粋だなとでも言いたげに、眉間を寄せた。
言葉が全部分からなくても、語気などで伝わることもあるのだろう。
「何故、畑を水で満たす必要があるんだ?」
しかし。
彼の聞いてきたものは、尋問ではなく──疑問だった。
「何故、豆類の枯れ草を畑にまくんだ?」
リサーは、彼女の言葉の理屈を知りたがっているのだ。
あー。
最初にここに来た時、景子はうまくしゃべれないまま、微生物の話を一生懸命しようとした。
だが、その微生物の話を、彼にしてしまえば、こう聞かれるだろう。
『どうして、お前にそれが見えるんだ?』と。
証明するには、顕微鏡がいるのだ。
「同じ植物を、同じ畑に続けて植え続けると…だんだん土が弱るの」
景子は、その話を避けながら、とつとつと説明を始めた。
「豆の枯れ草をすき込むのは、違う種類の植物だから…土に違う栄養が入って…」
そこまでは、何とか説明できた。
しかし、水を張るのは、偏った微生物を窒息させるため。
「水は…ええと…昔からそう言われてるから、何でかよく分からないの」
菊が、言葉を全部分からないのをいいことに、景子はそんな風にとぼけたのだった。
夜。
ようやく祭りは落ち着いて、景子はおばさんの家へと向かった。
おばさんは、始終上機嫌で、小さい家をまるごと彼女らに提供してくれたのだ。
旦那を早く亡くしていて、息子は一人いるが、19歳でちょうど旅に出ているという。
今日は、兄のところに泊めてもらうと、彼女は出て行った。
「見事だね」
小さい食卓の椅子に腰掛けながら、菊は目を細めながら景子を見る。
この手品のタネは、彼女にはバレているので、「そんな」と恥ずかしくなってうつむいた。
日本人だったから。
植物に携わる仕事をしていたから。
そんな景子の恥ずかしさを、もう一人理解してくれない人がいた。
「質問に答えてもらおうか…」
リサーだ。
彼女は、びくぅっと飛び跳ねる。
尋問されるかと、思ったのだ。
それくらい、上から目線の言葉だったのである。
菊が、無粋だなとでも言いたげに、眉間を寄せた。
言葉が全部分からなくても、語気などで伝わることもあるのだろう。
「何故、畑を水で満たす必要があるんだ?」
しかし。
彼の聞いてきたものは、尋問ではなく──疑問だった。
「何故、豆類の枯れ草を畑にまくんだ?」
リサーは、彼女の言葉の理屈を知りたがっているのだ。
あー。
最初にここに来た時、景子はうまくしゃべれないまま、微生物の話を一生懸命しようとした。
だが、その微生物の話を、彼にしてしまえば、こう聞かれるだろう。
『どうして、お前にそれが見えるんだ?』と。
証明するには、顕微鏡がいるのだ。
「同じ植物を、同じ畑に続けて植え続けると…だんだん土が弱るの」
景子は、その話を避けながら、とつとつと説明を始めた。
「豆の枯れ草をすき込むのは、違う種類の植物だから…土に違う栄養が入って…」
そこまでは、何とか説明できた。
しかし、水を張るのは、偏った微生物を窒息させるため。
「水は…ええと…昔からそう言われてるから、何でかよく分からないの」
菊が、言葉を全部分からないのをいいことに、景子はそんな風にとぼけたのだった。


