アリスズ


 村は──祭りになって、しまった。

 景子は、一番いい席に座らされ、死ぬほど居心地の悪い気分を味わわされる。

 さっきから、リサーが下座から睨んでいる気がするのは、やっぱりこの席次のせいだろうか。

 彼の方を見ないようにしながら、景子は戸惑いながらもてなしを受けるだけだ。

「最初は、頭のおかしな娘が来たと思っちまったよ…悪かったなあ」

 無愛想だった髭のおじさんが、ぼそぼそと隣で呟いた。

 あ、あは。

 景子は、苦笑しながら彼の正直な言葉に耳を傾ける。

 そうしている内に、村人がどんどん寄ってきて、うちの畑もと言い出してきた。

 しかし、既に実りはピークに近い。

 今更、増やすことなど無理な話だ。

 次の実りを、信じてもらうしかない。

 話を聞くと、豆と穀物を交互に植えるのは、この村では難しいらしい。

 豆は、税として収められないというのだ。

 なので、豆の作付面積の方が、圧倒的に少なかった。

 そうなんだ。

 刈り入れが終わったら、水を張って数日間放置。

 その後、水を抜いてから、貯めておいてもらった豆の枯れ草を畑に入れて耕してほしい──いま出来る助言は、そんなところだった。

 村長と呼ばれる人が出てきて、絶対にその通りにすると誓ってくれる。

 いや、そ、そこまで誓わなくてもいいから。

 自分を見る目が違いすぎて、景子は困ってしまった。

 この知識は、いわばズルっこの知識なのだから。

 多くの祖先が、沢山の失敗や技術の発展で手に入れた、蓄積されたもの。

 それを、景子はパクンと丸呑みしたに過ぎない。

 逆に。

 この村で、彼女が大失敗をしていたならば、今頃、石を投げられて追われていたかもしれないのに。

 ふと、昔のいやな記憶がよみがえりかけて、景子はそれにふたをした。

 お天道様の目がなければ、ここで一晩で結論を出すことは出来なかっただろう。

 しかし、それは日本では、彼女に恩恵を与えてくれるばかりではなかったのだ。

 ただ、いまだけは。

 この目に──感謝をしたかった。