☆
村に到着した時。
行きとは、逆方向から入ったために、景子はあの畑をすぐに見られないことを、とてももどかしく思った。
畑は、村の反対側にあるのだ。
足元に、火がついたように落ち着かなくなる。
早く見に行きたくて、しょうがなかった。
「荷物、預かるよ」
菊が、片手を差し出してくれる。
どこへ行きたがっているかなど、もはやお見通しなのだ。
たすき掛けに背負っていた荷物を、景子は首から抜いて菊に託す。
「じゃあ、ちょっと行ってくる!」
ずっと歩いていたのに、彼女の足はまだ言うことを聞いてくれた。
駆け出せたのだ。
「お、おい…」
状況を呑み込めないリサーが、景子に何か言いかけた気がした。
しかし、既に走り出した彼女の耳には、遠くに消えてゆく風に過ぎない。
振り返る村人を後ろに送りながら、村を駆け抜けてゆく。
そして。
ザァっと。
金色の穂が、光り輝き、風にうなりをあげている畑を見たのだ。
「………!」
景子は、足を止め──それを見入るしか出来なかった。
どこよりも重く、ずっしりと頭を垂れるその穀物の姿は、景子の目を奪ったのだから。
開花の前に、即席の土壌改良が間に合ったおかげだろうか。
美しいほどの光を、それは放っていた。
ひとしきり、その光景を目に焼き付けた後。
景子は、再び畑の土にはいつくばった。
手が汚れるのも気にせず、土を掘り返す。
生きてる。
ちゃんと生きてる。
確認する度に、景子は幸せでいっぱいになった。
だから。
追いついた菊が笑い、リサーがそんな彼女のみっともない姿にあきれていたとしても──まったく気づかなかったのだ。
村に到着した時。
行きとは、逆方向から入ったために、景子はあの畑をすぐに見られないことを、とてももどかしく思った。
畑は、村の反対側にあるのだ。
足元に、火がついたように落ち着かなくなる。
早く見に行きたくて、しょうがなかった。
「荷物、預かるよ」
菊が、片手を差し出してくれる。
どこへ行きたがっているかなど、もはやお見通しなのだ。
たすき掛けに背負っていた荷物を、景子は首から抜いて菊に託す。
「じゃあ、ちょっと行ってくる!」
ずっと歩いていたのに、彼女の足はまだ言うことを聞いてくれた。
駆け出せたのだ。
「お、おい…」
状況を呑み込めないリサーが、景子に何か言いかけた気がした。
しかし、既に走り出した彼女の耳には、遠くに消えてゆく風に過ぎない。
振り返る村人を後ろに送りながら、村を駆け抜けてゆく。
そして。
ザァっと。
金色の穂が、光り輝き、風にうなりをあげている畑を見たのだ。
「………!」
景子は、足を止め──それを見入るしか出来なかった。
どこよりも重く、ずっしりと頭を垂れるその穀物の姿は、景子の目を奪ったのだから。
開花の前に、即席の土壌改良が間に合ったおかげだろうか。
美しいほどの光を、それは放っていた。
ひとしきり、その光景を目に焼き付けた後。
景子は、再び畑の土にはいつくばった。
手が汚れるのも気にせず、土を掘り返す。
生きてる。
ちゃんと生きてる。
確認する度に、景子は幸せでいっぱいになった。
だから。
追いついた菊が笑い、リサーがそんな彼女のみっともない姿にあきれていたとしても──まったく気づかなかったのだ。


