アリスズ


 居心地の悪い旅路になった。

 景子に菊──そしてリサー。

 そんな三人で旅をすることになるなんて、誰が予想できただろう。

 アディマ、大丈夫かなあ。

 落ち着かない空気を吸いながら、景子は別れた彼のことを心配した。

 ダイがいるので、ちょっとやそっとのことは大丈夫だろうが、シャンデルもいるのだ。

 いくらダイでも、同時に二人を守るのは大変ではないだろうか。

 そんな話を、菊にぽつりとしたら。

 彼女は、ちょっと考え込んだ後。

「まあ、問題ないと思うよ」

 そう、薄く笑ったのだ。

「若さんは、景子が思うほどひ弱じゃないってことさ」

 付け足された言葉には、顔が赤くなってしまった。

 アディマが小さい頃の印象を、まだ完全には拭えずにいることを、菊に見透かされた気がしたのだ。

「よその国の言葉で話すな…不快だ」

 リサーの棘のある言葉に、景子はぴたっと口を閉ざす。

 閉ざさないのは──菊だ。

「同じ船に乗ってる間くらいは、協力的であろうと思わないのかな…この男は」

 堂々たる日本語。

 それに、リサーは睨みをきかすが、菊はまったくこたえていない。

 あ、あの、あんまり、ケンカは…。

 彼が、一方的にムキになっているのは、分かっている。

 しかし、彼だってこんなアクシデントは想定外で、どうしたらいいのか分かっていないのだ。

「す、すみません…面倒なことに巻き込んでしまって」

 景子は、小さくなりながら言葉をかけた。

 本当なら、いますぐアディマの元へ帰してあげたかったし、本人も帰りたくてしょうがないだろう。

「私は、私のためにここにいる。妙な気は遣うな!」

 ピッシィ。

 鞭を振るうようにしなる言葉に、景子はその場で踏みとどまれた自分をほめたいほどだった。

 ただ。

 リサーはリサーで、大きな何かを背負おうとしている自分を、ちゃんと知っていた。

 あのアディマから離れることを、ついには決意したのだから。