☆
「我が君! な、なんという!」
リサーは、これほどの屈辱はないというほどに、目の縁を真っ赤にしていた。
「勝手に行きたいと言っているのです、二人の勝手にさせればよいでしょう!」
まったくもって、おっしゃる通りでございます。
景子は、いまのリサーには、1ミクロンも逆らう気などなかった。
アディマの従者として、彼には誇りがあるのだ。
それなのに、目の敵にしている景子に同行しろなど。
彼は、随分無茶を言っている気がした。
「リサードリエック…」
アディマは目を閉じて、穏やかな声でその名を呼ぶ。
「お前は、ケーコの話を聞いてたかい?」
開いた瞳は、艶やかなカラメル色の金。
深い迫力さえ含むその色が、リサーに向けられている。
「き…聞いていました」
答える声を聞きながら、景子も一緒に首をひねっていた。
一体、彼女の話とリサーに、何の関係があるというのか。
「ケーコは、自分のしたことで穀物の収穫が上がったかどうか、様子を見に行きたいと言った…これの意味することを、お前ともあろうものが分からないのか?」
瞬間、従者は硬直した。
何か、強い衝撃を受けたかのように。
「この穀倉地帯は、この国でも有数の食料を生み出す地域だ。だが…年々、収穫は落ちている」
作付面積は変わらないというのに、だ。
アディマの、憂う声。
ああ、そうか。
景子たちにとって、食料とは単なる食料に過ぎない。
だが、国を治める者にとっては、食料は食料であり、税であり、そして民を満足させるためのものでもあるのだ。
食料の生産が減れば、税は下がり国庫は枯れ、民の不満も上がる。
「わ、分かりました…」
喉から搾り出すように、リサーは答えた。
彼は、いつか政治に参加することになるのだろう。
だからこそ、アディマは彼に同行しろというのだ。
景子が何をしたか、その目で知るために。
「デジュールボワンス卿の屋敷で、到着を待っている」
優しいアディマの声が、優しさだけで出来ているのではないと──分かった。
「我が君! な、なんという!」
リサーは、これほどの屈辱はないというほどに、目の縁を真っ赤にしていた。
「勝手に行きたいと言っているのです、二人の勝手にさせればよいでしょう!」
まったくもって、おっしゃる通りでございます。
景子は、いまのリサーには、1ミクロンも逆らう気などなかった。
アディマの従者として、彼には誇りがあるのだ。
それなのに、目の敵にしている景子に同行しろなど。
彼は、随分無茶を言っている気がした。
「リサードリエック…」
アディマは目を閉じて、穏やかな声でその名を呼ぶ。
「お前は、ケーコの話を聞いてたかい?」
開いた瞳は、艶やかなカラメル色の金。
深い迫力さえ含むその色が、リサーに向けられている。
「き…聞いていました」
答える声を聞きながら、景子も一緒に首をひねっていた。
一体、彼女の話とリサーに、何の関係があるというのか。
「ケーコは、自分のしたことで穀物の収穫が上がったかどうか、様子を見に行きたいと言った…これの意味することを、お前ともあろうものが分からないのか?」
瞬間、従者は硬直した。
何か、強い衝撃を受けたかのように。
「この穀倉地帯は、この国でも有数の食料を生み出す地域だ。だが…年々、収穫は落ちている」
作付面積は変わらないというのに、だ。
アディマの、憂う声。
ああ、そうか。
景子たちにとって、食料とは単なる食料に過ぎない。
だが、国を治める者にとっては、食料は食料であり、税であり、そして民を満足させるためのものでもあるのだ。
食料の生産が減れば、税は下がり国庫は枯れ、民の不満も上がる。
「わ、分かりました…」
喉から搾り出すように、リサーは答えた。
彼は、いつか政治に参加することになるのだろう。
だからこそ、アディマは彼に同行しろというのだ。
景子が何をしたか、その目で知るために。
「デジュールボワンス卿の屋敷で、到着を待っている」
優しいアディマの声が、優しさだけで出来ているのではないと──分かった。


