アリスズ


 ああああ。

 景子が、ルート変更の説明を、しどろもどろにアディマにしている間。

 リサーの眉間の皺が、どんどん深くなっていくのが分かったのだ。

「ああ、でも…わ、私と菊さんだけで行くから」

 だが、そう付け足した瞬間のリサーの顔は、まるで陽が差したように明るく晴れやかに変わる。

 彼が、二人の離脱をとても喜んでいることだけは、はっきりと伝わってきた。

 よほど、景子たちが邪魔らしい。

 だが。

「どうせ急ぐ旅ではないから…僕らも、そちらのルートをゆこう」

 アディマが、そんなことを言ったがために。

「「………!!」」

 また、リサーと景子の息が合うこととなったのだ。

「いけません、我が君。この街道でないと、次の領主のところへゆくのに遠回りになってしまいます」

 そして、彼の忠実なる従者は、もっともな意見を情熱的にぶつけるのである。

 コクコクと、景子も頷いた。

 これは、あくまでも彼女のワガママの範疇の話なのだ。

 どうしてそれに、アディマを巻き込めようか。

「何? 若さんも行くって?」

 二人の様子で、菊にまで会話が筒抜けたようだ。

 彼女は、とても面白そうに目を細める。

 い、いや、面白くないから。

「リサードリエック…時間は、余るほどにあるよ」

「安全は、余るほどにございません!」

 主君の言葉に、それでもリサーは食い下がる。

 ふむ、と。

 アディマは、ここを強硬に通す気配はないようで、しばらく考え込んだ。

 景子は、それにほっとしかけた。

 菊と二人で行かせてもらう方が、よほど気楽だった。

 それか、行くことをあきらめるか。

 話の流れは、前者に傾きかけたように見えた。

 なのに。

「では、リサードリエック…お前が、この二人と同行してもらおうか」

 アディマの結論は──遥か高みにぶっとんだのだ。

「「………!!」」

 そして、リサーと景子の目を飛び出させたのだった。