☆
「リサードリエック…」
あの、意思のある声が、忠実なる従者の名を呼んだ。
はっと、景子が振り返ると──アディマとダイが、こちらに向かっているのが見える。
慌てて、女たちは脇へとよけた。
「準備は整われましたか、我が君」
リサーは、目を伏せている。
アディマの目を見ると、何か咎められるとでも思っているのか。
と、人の心配をしている場合ではなかった。
景子は廊下の脇で、ガクブルの続きをするしかないのだ。
無意識に、菊にしがみついている自分に気づかないまま。
「ああ、いつでも出発できるよ」
リサーの名を呼びながらも、彼は特別用事のある言葉は投げなかった。
そして。
女性たちの方へと、彼は視線を向けるのだ。
「おはよう…今日もいい朝だね」
その言葉に、シャンデルは深々と腰をかがめる。
景子も、そうしようと思ったのだが、足がうまく動かせない。
菊にならって、頭を下げるので精いっぱいだった。
そんな彼女に、アディマは優しく微笑んでくれるのだ。
ああああ、そんな目で見ないでぇ!
自分の、女としての無能さとか至らなさとかを隠している、押入れのふすまを開け放たれてしまう気がしたのだ。
隠しているものが、そこから雪崩のように滑り落ちてゆくというのに。
一生懸命、ふすまの戸を抑えながら、景子は赤くなったり青くなったり忙しかった。
「じゃあ、行こうか」
そう言って、アディマは男二人を従えて歩き始める。
シャンデルが続く。
「大丈夫? 景子さん」
しがみついたままの彼女に、菊が一声かけてきた。
「う、うん」
ようやく手を離し、景子は深呼吸した。
どうしたらいいのか分からないままでも──また旅は続いてゆくのだ。
「リサードリエック…」
あの、意思のある声が、忠実なる従者の名を呼んだ。
はっと、景子が振り返ると──アディマとダイが、こちらに向かっているのが見える。
慌てて、女たちは脇へとよけた。
「準備は整われましたか、我が君」
リサーは、目を伏せている。
アディマの目を見ると、何か咎められるとでも思っているのか。
と、人の心配をしている場合ではなかった。
景子は廊下の脇で、ガクブルの続きをするしかないのだ。
無意識に、菊にしがみついている自分に気づかないまま。
「ああ、いつでも出発できるよ」
リサーの名を呼びながらも、彼は特別用事のある言葉は投げなかった。
そして。
女性たちの方へと、彼は視線を向けるのだ。
「おはよう…今日もいい朝だね」
その言葉に、シャンデルは深々と腰をかがめる。
景子も、そうしようと思ったのだが、足がうまく動かせない。
菊にならって、頭を下げるので精いっぱいだった。
そんな彼女に、アディマは優しく微笑んでくれるのだ。
ああああ、そんな目で見ないでぇ!
自分の、女としての無能さとか至らなさとかを隠している、押入れのふすまを開け放たれてしまう気がしたのだ。
隠しているものが、そこから雪崩のように滑り落ちてゆくというのに。
一生懸命、ふすまの戸を抑えながら、景子は赤くなったり青くなったり忙しかった。
「じゃあ、行こうか」
そう言って、アディマは男二人を従えて歩き始める。
シャンデルが続く。
「大丈夫? 景子さん」
しがみついたままの彼女に、菊が一声かけてきた。
「う、うん」
ようやく手を離し、景子は深呼吸した。
どうしたらいいのか分からないままでも──また旅は続いてゆくのだ。


