アリスズ


「「………!!!」」

 景子は、初めてリサーと意見が合った。

 二人同時に、声なき叫びをあげたのだ。

 な、な、な、な!

 ただでさえ、精神的疲労にさいなまれていた景子は、完全に腰がなえてしまった。

 ソファに座っているというのに、よろけてしまったのだ。

 背もたれや、ひじ掛けに捕まるようにして、自分の態勢をキープするので精いっぱいになる。

「わ、わ、わ、わ…我が君!」

 それは、リサーも同じだった。

 あの彼が、完全に取り乱してしまっている。

「どうしたんだい、リサードリエック?」

 一人だけ。

 この部屋の中で、一人だけ温度を変えない者がいた。

 アディマは穏やかに、しかし、リサーの激しい動揺を、少し楽しそうに見ているではないか。

「ど、どうしたもこうしたもありません! お戯れも、そのくらいにして下さい!」

 ようやく、舌を自分の管轄に取り戻したのか、リサーの言葉がだんだんなめらかになってゆく。

 しかし、語気は緩められていない。

「リサードリエック…どうして僕が、戯れで自分の伴侶の話をすると思うんだ」

 アディマも、まったく言葉を歪める気配がなかった。

 ほ、本気だ。

 景子は、青ざめた。

 本気で彼は、さっきの言葉を吐いたのだ。

 彼女が茫然と、その認識をしようとしていた時。

 リサーのきつい視線が、景子に飛び火した。

 視線が矢ならば、いまごろ景子の身体は隙間もないほど矢が突き立っていたことだろう。

 その唇が。

 いまやまさに、間違いなく景子を責めるために開こうとしたその時。

「リサードリエック」

 意思の込められた、たった一言が、リサーの唇を縫い止めてしまった。

「何か言いたいことがあるなら、僕の方を向いて言うべきだ」

 静かだが。

 きっぱりとした声だった。