アリスズ


 アルテンのことは、多少は見直した。

 梅は、自室でため息をつく。

 しかし、二人きりになる気はない。

「ウメ…私の話を聞いてくれないか?」

 ノッカーと扉ごしに、そう語りかけられる。

 夜に、突然彼女の部屋へとやってきたのだ。

「今日は疲れました…また明日にして下さいませ」

 初日の夜であれば、無碍には出来ないと思ったのだろうか。

 アルテンは、明日の夜までこの屋敷に居座るのだから。

 しかし、きっぱりと梅は拒絶した。

 扉を開けるほど、彼女は相手に心を開いてはいない。

「…ほんの少しの時間でいいんだ」

 殊勝な声音になるが、梅は心をまっすぐにした。

 まるで、七匹の子ヤギだ。

『おかあさんだよ、開けておくれ』

 扉を開けると、よからぬことが待っている。

 たとえ白い手を差し伸べられたとしても、だ。

「貴方も紳士であられるのなら…部屋にお戻り下さい」

 鋼鉄の扉に変えた梅は、穏やかにアルテンをまわれ右させようとした。

「そ、そうだ…君は、うちの使用人の女をえらくお気に入りだったよね…君が欲しいというのなら、あれを君にあげよう」

 言葉でダメなら、懐柔か。

 彼は、今度はエンチェルクという褐色の肌の娘を、梅の目の前に吊り下げる。

 ああ。

 梅は、理解した。

 アルテンは、人の好意が何に集まるのか、それを知らないのだ。

 後継ぎで、ちやほやされて育ったせいだろう。

 誰も彼には逆らえず、多くが彼に媚びる。

 そんな環境で育てば、こうなってもおかしくないのかもしれない。

「あなたは…」

 梅は、扉のところに近づきながら、声をかけた。

 向こう側がそれに気づいて、気配を跳ねさせたことが分かる。

 しかし、彼女は扉を開けたりはしなかった。

 こちら側で、その扉を見ながら、こう言ったのだ。

「あなたは…武者修行に出られた方が、よろしいようですわね」