☆
「抜くの?」
梅が、夜風にかき消されるほどの声で囁く。
景子は風下にいたおかげか、かろうじて聞き取れた。
「そのための物だろう?」
菊の声に、微かな高揚感が混じっている気がする。
その事を、彼女はいやがってはいないのだ。
抜く?
何のことか分からない景子の前で、菊は美しい布の袋を取り払った。
ああ。
布は、光を失う。
そのまま、梅の手に力なく落ちてゆく。
光っていたのは、その内側の美しい長物。
菊の手の中に、それはあった。
純粋な、まっすぐではない。
若者の背のように、美しい反りの曲線を描いている。
刀?
本物を見たことのない景子は、ついつい疑問形になった。
しかし、見惚れずにはいられない、業物なのだけは分かる。
「でも…それは…」
梅は何かを言いかけたが──そこまでで止める。
こんなものを、持って歩いていたのだ。
警察官に職務質問され、中身を改められたらお縄になるようなもの。
何か、よほどの理由があったのだろう。
そう言えば。
弟が生まれたと言っていた。
年の離れた弟だ。
その誕生の祝いに、梅は桜の苗を買いに来た。
そして。
菊の手には、刀があった。
何か、弟の誕生と関係があるのだろうか。
余計なことを考えていた景子に、菊が振り返る。
「梅を…頼む」
真面目な菊の瞳に気おされて、彼女はこくこくと頷くことしかできなかった。
「抜くの?」
梅が、夜風にかき消されるほどの声で囁く。
景子は風下にいたおかげか、かろうじて聞き取れた。
「そのための物だろう?」
菊の声に、微かな高揚感が混じっている気がする。
その事を、彼女はいやがってはいないのだ。
抜く?
何のことか分からない景子の前で、菊は美しい布の袋を取り払った。
ああ。
布は、光を失う。
そのまま、梅の手に力なく落ちてゆく。
光っていたのは、その内側の美しい長物。
菊の手の中に、それはあった。
純粋な、まっすぐではない。
若者の背のように、美しい反りの曲線を描いている。
刀?
本物を見たことのない景子は、ついつい疑問形になった。
しかし、見惚れずにはいられない、業物なのだけは分かる。
「でも…それは…」
梅は何かを言いかけたが──そこまでで止める。
こんなものを、持って歩いていたのだ。
警察官に職務質問され、中身を改められたらお縄になるようなもの。
何か、よほどの理由があったのだろう。
そう言えば。
弟が生まれたと言っていた。
年の離れた弟だ。
その誕生の祝いに、梅は桜の苗を買いに来た。
そして。
菊の手には、刀があった。
何か、弟の誕生と関係があるのだろうか。
余計なことを考えていた景子に、菊が振り返る。
「梅を…頼む」
真面目な菊の瞳に気おされて、彼女はこくこくと頷くことしかできなかった。


