「朔(ハジメ)、今日は、付き合ってくれてありがとう」


運転席から俺を見上げて、親友の靖子が照れ臭そうに笑う。


「いや、こっちこそ来てもらってありがとな」


いつものように、靖子の頭に手を置いて、別れの挨拶をした。


こいつは恋人じゃない。


だから抱き寄せて、唇を重ねたい気持ちをぐっと抑えた。


2年前……。


たまたま、職場の飲み会に参加した時に、右斜め前にちょこんと居た靖子。


おやじ達に、ちやほやされていたのをからかい半分に見ていた。


そして、おやじ達がいなくなったのを見計らって、声をかけたんだ。


そして、今じゃ親友の位置にいる。


今日、俺の家に来た理由は失恋。


『やっちゃんはさ〜、俺と居過ぎるんじゃね〜の?』

『え〜それ言うなら、お互い様じゃん』


この会話は、お互いの失恋話の後の決まり文句。


それで笑い合って、チャラにする。


誰もいない俺の部屋。


本当は、抱きしめて、そのまま俺のものにしたい。


でも、親友だから……


あいつの1番近くに居たいから、それはしない。


【今度、どっかに遠出しような♪】


靖子が家に着いた頃を見計らってメールをした。


それが、精一杯のアピール。


【よろしく☆】


それも、いつもの返信。



「あいつ、俺の気持ちなんか解ってねーよな」


携帯を見つめ、溜め息をついた。


「こんなに、大切に思ってるのによ……」



仲間内で出掛けた集合写真。


靖子の笑顔の横には、別れた元カレがいる。


くっつけたのは俺様だ。


「靖子のこと、泣かせやがって」


写真相手に、睨みを効かせる。


「でも、今の関係が1番だ」


意気地のない自分を責めながら、次に靖子と出かける場所を探すため、旅行雑誌を手に取った。



秘めた恋。



あいつの癒しの場所で、もうしばらくいようと思う。


=fin=