これは俺が結婚する少し前の話。

――――――――…

「晃がもうすぐ結婚かぁ」

「「結婚かぁ」」


そう美波が頬杖をついて盛大なため息をつく隣で、藍海と賢夜の双子ちゃんは美波の言葉を真似して、同じように頬杖をつきながら俺を楽しそうに見ている。


この親子は、まったく…


どうしてこの双子ちゃんは、こうも美波そっくりの性格してるんだよ。


双子は頬杖をついたまま目の前のオレンジジュースをストローを通して吸い込む。


思ったよりも冷たかったのか目を少し大きく開いて、素早くぎゅっと瞑るとストローから口を離し、両手でほっぺたを撫でていた。


その光景は愛しいくらいに微笑ましい。


美波と慎吾の子ども。


俺の一番大切な二人の子どもだから、二人の成長がこんなにも嬉しいのかもしれない。


「グレニス、元気?」

「あぁ」

「…そう、良かった。会えるの楽しみだわ」

「アイツも会いたがってる」

「…寂しくなるね」

「帰ってこないわけじゃない」

「でもっ!………いつ帰ってこれるか分かんない」

「寂しい、…か」

「今までのようには会えなくなるでしょ」

「今までだって、ここ何年かは数回しか会ってない」

「違うよ。今までは帰ってくるって、年に何回かでもそうそう思えたけど、これからは違う。晃…帰ってこれない」


幼なじみってすげぇよな。こんな美波の言葉でも、ちゃんと意味が理解できるんだから。


確かに今までは年に数えるほどでも、自分の好きなとき帰ってきて、満足するまで日本にいることができた。だけど、これからは俺の都合だけでは行動できない。


自由な行動が制限される。だから、日本に帰りたいときには帰れなくなる。そういうことを美波は言ってる。


でもな、美波。今日、お前に会ったのはそんな言葉を聞くためじゃない。


他の誰よりお前に言ってほしい言葉があるんだ。


俺が言わせるんじゃなくて、美波から言ってほしい。そのために、今日俺は会いに来た。


目の前のコーヒーカップに手を伸ばす。


美波も俺と同じようにコーヒーカップに口をつける。