これは俺が中学生だったときの話。

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「美波ってほんと可愛いよな」

「俺は…真琴派だな」


こんな会話はよく聞く。

俺だって美波は可愛いと思うし、真琴は可愛いっていうよりキレイって思う。


けど、俺は美波しか気にならなくて、気がついたら美波を視線で追っている。


だから、美波がいいって言う奴を見たり聞いたりするだけで胸くそ悪い。


つーか、殴ってやりたくなる。


そう思ってるのは俺だけじゃない。


幼なじみの晃も。


晃が美波を好きって分かったのは、ついこの間だった。


美波を見つめる目が、優しかったんだ。


ただそれだけのことで決めつけんなよ、って思うかもしれないけど、俺にしたらそれだけで十分だった。


ライバルだと認識してから、晃への嫉妬が増えた。


美波と話す晃の姿も、美波の隣を歩いて登下校するのも、なんかイヤでしかなかった。


そんな時、美波が仲良くなったことがきっかけで俺や晃も仲良くなった真琴に聞かされたんだ。


美波って晃のことが好きなんだね、って。


それを聞いたとき、俺は、俺の世界は崩壊したような錯覚をうけた。


人は簡単に崩れさる。


ガタガタになった地盤。
支えのない不安定な気持ち。


それを聞かされたその日のその後の行動を、何度振り返っても思い出すことができない。