これはわたしが部長と結婚したばかりのころのお話。


―――――――…


「部長!起きてください!仕事遅れちゃいますよ」

気持ちよさそうに眠る部長の身体をゆらゆらと揺らして目覚めを促す。

結婚しても部長と呼ぶのは、なんだか照れくさいから。

いつか名前で呼べるといいな、って思うけど、まだ恥ずかしいから当分先の話だと思う。

うーとか、あーとか小言をいうけど起きる気配は全く見せず、それだけじゃなくて起こそうとするわたしの手をも払いのけた。

………………遅刻しろ!!!!

起こすのをやめて寝室を出ていそいそと仕事に行く準備をすすめる。

部長なんて部長なんて遅刻しちゃえばいんだ。せっかく起こしてるのに、手まで払いのけることないじゃん。しかもがっちり痛いし。

知らないよ、もう。

起きてくれればいつもなら一緒に通勤するのに、起きてくれないから一人で駅まで向かった。

いつもふたりだったから一人とか久しぶりすぎて…なんか寂しいな。

こんなに朝が冷えるなんて。

駅ってこんなに人多かったかな。

風が直接あたり、人の多さでぶつかる人もちらほら。

今まで風なんて感じたことなかったし、ぶつかったこともなかったのに。