「結婚はしない」


美穂は俺が持ってきた婚姻届に記入する事を拒んだ。


「どうして?子供居れば当たり前だろ?」


「私に縛られないで欲しいの。そう言っても子供が無事に産まれたらそうはいかないかもしれないけど。私も・・・赤ちゃんも無事だったらその時は籍を入れましょ」


美穂の目は先を見てない目だった。


死を覚悟で子供を産む。


俺の職業柄『生と死』は常に隣り合わせ。


アイツもそんな俺の背中をずっと見守ってきた女だ。


「赤ちゃんの名前。藍(アオ)にしてね?」


「藍?」


「藍(アイ)の花知ってる?藍染に使われるんだけど。藍の花って綺麗なピンク色の花を咲かすの。中には白もあるけど」


「花なんか・・・さっぱり?」


「‘青は藍より出でて藍よりも青し’って言葉知らないわよね?」


「・・・・・・」


「様は、努力すれば何事も超えられるって感じの意味よ」


美穂はキョトンとする俺を微笑みながら言ったんだ。


出藍の誉れ(しゅつらんのほまれ)
青い色は藍(アイ)から作り出すもの。元の藍よりも鮮やかな青色をしてる。氷は水から出来るものだけど水より冷たいものである。


難しい事を美穂に説明されたけど俺には理解出来なかった。