「私さ・・・昔、大好きだった人がいたんだよ。」
それを言われた瞬間、望巳の中に五月に出会った少年少女が思い出された。
名前は、今でも覚えている。
歩と麻美・・・。
おそらく、彼女が好きだった人というのは歩の方なのだろう・・・。
「その人とは家も近所で親同士の付き合いもあったせいか、小さな頃から何かと、一緒でさ・・・周りの大人たちも二人は結婚するのだ~とか、言っていて・・・そんなの、冗談に決まってるのに、いつの間にやら私も、そう思っていたんだよね?」
結婚するはずだった歩。
それは、周りの大人たちの偏見から来た悪い冗談だったのかもしれないが、彼女にとっては、本気の言葉だったのだろう。
だけど・・・
だったら・・・・どうして、彼女は・・・・・。
「だけど、思春期って難しくてさ・・・どういう理屈か分からないけど、私の友達もその人を好きになちゃって・・・・・・・・・私は、それでも大丈夫だと思ってたんだよ・・・。」
最後の方の声は掠れていた。
今でも、思い出すのが辛いぐらい嫌な思い出なのだろう。
なら・・・
どうして、それをもう好きでもなくなった俺に話してくれるのだろうか・・・。



