少女王子さま 〜田舎娘に小鳥のワルツを〜

幸い、夕方の廊下には人気があまりなかった。
元々ここは王族の住まいとして使われている館なので、人通りが少ないのだ。

これ幸いとミミは廊下をうろちょろ歩き回った。
時々すれ違う侍女達にドキッとしながら、にこにこと愛想笑いでやり過ごす。

……しかし、探しても探しても掃除道具置き場らしきものは見つけきれなかった。

「うう、なんでないのよ……」

少女は壁に手をついて、盛大なため息をはいた。

最後の手段はどうかと思ったけれど、しょうがない。
ミミは丁度廊下を通りかかった人影に声をかける。

「あっあああのあの!」

「………………?」

どもりまくった声に立ち止まったのは兵士の青年だった。
青年は周りを見渡したあと、此方に気が付く。
そしてルイス姿のミミを確認するや否や、顔が強ばるのが見てとれた。

…え?なに?

「あのう、お仕事中にすみません。掃除道具って、どこにあるんですか……?」

「……は、?」

すごく怪訝そうな顔をしている。
う、あたし、そんな変なこと言ったかな?

「ミっ…、ルイス様!」

そこへ、焦った顔のコレットが戻ってきた。
その手に頼んでいた歴史の本を見つけて、ミミはあっと声を上げる。

「コレット、おかえりなさい!本取ってきてくれてありがとう。」

振り返ると、はあはあと息をきらしながら隣に来てくれた。
あれ…走って来てくれたのかな?

「ど……どうされたのですか?お部屋で待っていてくださいと申しましたのに…」

珍しく余裕の無さそうなコレットを不思議に思いながらミミは眉を下げる。

「う…ごめんなさい、床にインクをこぼしちゃったから、掃除道具を探してたんだけど。」

「ひえっ、そんなことは、わたくしにお任せ下さいませ!」

正直に白状すると、コレットはぎょっと目を見開いた。
それは床を汚してしまったことではなく、掃除道具を探していたことにびっくりしたらしい。

「ごめんなさーー」

「ーーすみませんが、私は仕事があるので、もう宜しいでしょうか。」

硬い声に遮られ、そういえば人を呼び止めていたのだったと思い出す。

「あっはい!ごめんなさい、ありがとうございます。」

ペコリと頭を下げると、兵士は儀礼的に礼をして去って行った。
何か表情が無い人だったなとしばらく見ていると、コレットがふいに呟く。

「あの方は、碧の騎士なので、普段こちら側とは接触はなさりません。」