「えええと、これが………?」
結局ミミは、のこり大量の勉強の為に紙とインクを取り出した。
読むだけではすぽんと抜け落ちてしまう自分の頭に対抗するために、ミミは重要なところは文字にして書くというやり方にしていた。
慣れない文字を書くのにまたすごく時間がかかってはしまうのだけど、書かないで抜けてしまうよりはと、コレットにも進められたのた。
…というか成人の儀たった1日の為に、どうしてこんなのを覚えなくちゃいけないんだろう、とミミは長椅子に座り、貴族名鑑を持ち上げた。
分厚い本には、少女には縁もゆかりも無いであろう貴族達の名がずらりと並んでいる。
「この人が、………なんだっけ?」
けれどコレット無しの一人での勉強は、やる気も理解力も皆無に等しく、ミミは諦めて本をテーブルに戻し、長椅子にぽすんと沈みこんだ。
ぼちゃん
しかし聞こえた音にえ、と顔を上げて、少女はさあっと青ざめた。
よく見らずに置いた拍子に、本をインクの入ったビンにぶつけてしまったらしい。
「あ、あああー!」
真っ青になりながら立ち上がったけれど、こぼしてしまった液体は、みるみるうちに床に染み渡っていく。
幸い本にはかからなかったけれど。
「うああ…ど、どどどどうしよう!」
これはコレットが戻ってくるのを待っていたら、染み付いて取れなくなってしまうかもしれない。
部屋をきょろきょろと見回すけれど、掃除道具らしきものは見当たらない。
「………あ、当たり前か、王子様のお部屋だもんね…。」
ミミは急いでシャツとパンツに着替え、亜麻色の髪をくくり、金色のカツラをすっぽりと被った。
あれからコレットがカツラを調整してくれて、ミミ一人でも被れるように簡単なものにしてくれたのだ。
鏡でいちおう確認してみる。
よし、たぶんルイス王子になれてる、はず。
というか見たこともない人なので、確かめようがない。
何でも完璧なコレットに感謝しつつ、ミミは恐る恐る廊下に出た。
一人で廊下に出るのは初めてだけど、ちょっと掃除道具を探すだけである。
誰にも会わない…と、思う。
「よし、すぐ行って、すぐ戻ろう。」
そう心の中で宣言してから、ミミはするりと扉から出た。

