サイン本を手に取り、表紙をめくった。

最初の黄色いページに、たどたどしい字体で、
『クシャおじさん』
とボールペンで直筆サインが書かれていた。

サインというより、外国人が初めて、見よう見まねで日本語を書いたような、たどたどしい筆跡だった。

しかも、『ク』の上に、グシャグシャっと書いた痕跡がある。
書き始め、ボールペンのインクが出なかったのだろう…。

これで100円引きとは、高すぎる。

そう思いながら、表紙を閉じ、元の場所に戻した。

「それ、本物のクシャおじさんのサインですねん」

平積みの台の陰から、震えるような、男の声がした。

「ワシが、クシャおじさんですねん」

小さな身体の老人が言った。

「お買い得ですねん」