「……でもさ、小野君もあたしのこと名前で呼んでくれないよね?アユって呼んでほしいなぁ」


「お前が俺のことを名前で呼ぶまで、俺もお前の名前は呼ばない」


「なんかズルイなぁ、それ。でも『小野君』ていう呼び方、あたし凄く気に入ってるんだよなぁ」


「じゃあ、お前は結婚してからも俺を小野君って呼ぶのか?」


「え?!もしかして、小野君、あたしと結婚すること考えてた?」


「そんなの例えだろ」


「もー、照れちゃって。小野君って案外可愛いところあるんだね?」


あたしが小野君のわき腹をツンツンと突くと、小野君はプイッとあたしから顔を背けた。


「勝手に言ってろ」


「ちょ……っと!待ってよー、小野君!!」


あたしを置いてスタスタと歩き出した小野君の大きな背中を追いかける。



『小野君』っていう呼び方を『壱星』に変えまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。



「遅せぇんだよ」


すると小野君はくるっと振り返り、あたしに右手を差し出した。