祭り会場から早く抜け出したいのに、人の波が邪魔をしてうまく歩けない。 履きなれない下駄で走ったからか、鼻緒が指の間に食い込んで鈍い痛みが走った。 小野君は今頃、あの女の人と花火を見ているのかもしれない。 あたしが座っていたあの場所に、今度はあの人が…… あたしはもう、小野君の隣に座ることはできないのかな? 俯きながら歩くと涙が溢れだしてしまいそうで、思わず顔を上げる。 すると、前方にいた人と視線がぶつかった。 「……直人君……?」 そう口にした時には、あたしの頬は涙で濡れていた。